約 1,345,128 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2183.html
フーケが造ったという浴場は、他の民家と同じような外見の建物の中にあった。 家を新築して、中身を完全に風呂場として設計したらしい。広い脱衣所には鏡台や洗面台のようなものまであり、どこの王侯貴族が使うのかと疑問を抱いてしまうほどだった。 流石に造ってばかりとあって材木からは木の香りが強く、少しだけ鼻につくが不快になるほどではない。むしろ、心地よい感覚を提供してくれた。 感嘆の息を漏らすエルザに、フーケは自慢げに胸を張って前に進むと、格子状に区切られた棚の一つから籠を取り出す。 脱いだ衣服はや着替えは、そこに入れるらしい。 早速とばかりにフーケは最初に首の後ろで縛っていた輪ゴムを外すと、着たままだったエプロンを脱いで、その下にある緑を基調とした衣服に手をかけた。性格や外見から予想したものとは違い、下着は白で細かなレースが編まれたものだ。 ティファニアも同じように太ももまで伸びるソックスや上腕の中ほどまで隠すロンググローブを外すと、若草色の服を脱ぎ始める。キャミソールの類は着ていないらしい。布一枚であの豊満な胸を支えていたようで、下はフーケと同じ色のパンツが秘所を隠しているだけだった。残念ながら、せっかくの大きな胸は髪に隠れて見えなかったが。 なんというか、ずるい。とエルザは思った。 アルビオン人の特徴なのかは分からないが、フーケにしてもティファニアにしても、体付きが妙に色っぽい。エルザの記憶にある女は誰も彼もが貧相な体つきをしていた。最近やっと見かけたキュルケはゲルマニアの出身で、ガリアとは関係ない。 一応ガリア出身であるエルザは、慣れた様子で服を脱ぐ二人から隠れるようにドレスを籠に入れると、自分の体を見て深い溜息をついた。 これ、大きくなるのかしら? 両手で胸や腰、尻の辺りをそっと撫でて、首を捻る。 そんなことをしている間にフーケとティファニアは入浴準備を終えて、湯浴み用の布で体を覆っていた。 「ほら、早く準備しな。それとも、わざわざ脱がしてもらわないとダメかい?」 からかうような言い方に、エルザは少しだけムッとなる。 「あら、フー……じゃなくって、マチルダったら、女の子を脱がすのが趣味なのかしら」 そうなの?とティファニアが純粋無垢な視線を投げかけてきて、フーケは頬を引き攣らせた。 「ば、バカ言うんじゃないよ!アタシは至ってノーマルなんだ!同性愛に走るほど落ちぶれちゃ居ないし、男にだって飢えちゃいない!変な事言ってないで、さっさと脱ぎな!」 「はいはい、そんなに必死になってると逆に怪しまれるわよ」 「こっ、このガキィ……!!」 拳を握り締め肩を震わせるフーケに、最後の下着を脱いだエルザはペロッと舌を見せると、ティファニアから渡された布を手にして浴場へ向かった。 家の中は木製の扉を境に三等分されている。一つは脱衣場、一つは浴場、一つはサウナだ。建物の外には浴場にお湯を送り込むための釜が設置され、そこでは今頃、地下水が薪に火をつけて湯を沸かしているはずだった。 扉を開けて浴場に姿を現したエルザは、てっきり脱衣所と同じように木で作られているかと思った浴場が表面の粗い陶器に覆われているのを見て、目を丸くした。 ちょろちょろと部屋の端に置かれた小さな女神像が担ぐ瓶からお湯が流れ出て、大きな浴槽に湯を注いでいる。瓶は外にある釜に繋がっているらしい。正確な構造までは説明されていないが、多くもなく、少なくも無い量のお湯が常に供給される仕組みのようだ。 「ねえ、なんで陶器なの?木のほうが香りがあっていいのに……」 後ろから続いて入って来たフーケに尋ねると、腰に手を当ててきっぱりと言った。 「掃除が楽だからさ!」 体に巻いた布の下で、二つの大きな膨らみが弾んだ。 木は長く水に当てると腐る。カビも生え易く、手入れが難しいのだ。 その点、陶器は表面を洗ってしまえば大抵の汚れは何とかなるし、木と違って錬金で簡単に補修が出来る。滑り止めのために多少の工夫を入れるのも、魔法を使えば簡単だ。 「……少し熱いかしら?」 フーケとエルザの横を通り過ぎたティファニアが、子供達が入った後で少しだけ汚れている浴槽の湯に指を入れて温度を測った。 「地下水!氷作って、氷!」 浴場に一つだけある四角い小さな窓に向けて、エルザが叫んだ。 すぐに気の抜けたような返事が返ってきて、窓の隙間から大量の氷が降ってくる。浴槽に入った氷はすぐに溶けて消えていった。 「なんだい、あのナイフ。水系統が使えるのかい。なら、沸かし直しても良かったかもしれないねえ」 「メインは風だから、お湯を沸かすのは苦手だと思うわ。火の系統のメイジがいれば一瞬なんだろうけど」 空気中の水分を集めて水を作り出せるメイジと高熱を操る火のメイジが居れば、わざわざ薪を使って湯を沸かすまでも無い。だが、そう都合よくは行かないようだ。土系統のメイジであるフーケは、一点に特化していて土以外は苦手だし、エルザの場合はそもそも魔法の仕組み自体が違う。 「そういえば、ティファニアはなんの系統なの?エルフの血が入ってるなら魔力が無い訳じゃないだろうし、かと言って精霊の声が聞こえるわけでもないみたいだし」 先住魔法を使うには、精霊との交信が必要不可欠だ。ただ、魔力があれば良いというものでもない。メイジの始祖ブリミルから続く系統魔法を覚えれば精霊は力を貸してはくれないだろうし、逆もまた然りだ。 そんなエルザの言葉に、ティファニアは視線を斜め上に向けて人差し指を顎に当てた。 「それが、よく分からなくて。コモン・マジック以外は一つしか魔法を使えないし、その魔法もなんの系統なのか、調べても見つからないの」 魔法学院の学院長付きの秘書が身近にいるのに、分からないとはどういうことだろうか。 エルザが視線をフーケに向けるが、フーケのほうも首を振って肩を竦めていた。 「アタシも聞いたことの無い詠唱でね。学院の図書館に何度か足を運んだけど、結局分からず仕舞いさ。先住魔法って訳でも無さそうだし、お手上げさね」 「……ふーん」 少し考える仕草をしたエルザは、特に興味を抱かなかったのか、そのままティファニアの元に寄って浴槽に手を突っ込んだ。 暖かい。ちょうど良い湯加減のようだ。 「ま、わかんないことは仕方ないし。さっさと入りましょ」 体に巻いた布を脱いだエルザが白い肌を晒す。湯船に浸かるときは邪魔なものは取っ払う主義らしい。 「あ、ちょっとまった。湯の掃除がまだだよ」 それをフーケが手で押し止め、一度脱衣所に戻ったかと思うと、杖を持って再び浴場へと入ってきた。 短くルーンを呟くと、錬金という言葉と共に杖を一振りする。 だが、特に変化らしいものは見られなかった。 「……なにをしたの?」 系統魔法にそれほど詳しいわけではないエルザが怪訝な表情でフーケを見た。 魔法に失敗したのか?と言いたそうな顔をしている。 そんな視線にフーケは眉を潜めると、杖を浴場の隅に重ねられた桶の一つに放り込んで浴槽の湯の表面を覗き見た。 「湯全体に錬金をかけたんだよ。汚れだけを選んで除去なんて出来はしないからね。全部水に変えてしまえば、汚れなんて消えてなくなるだろ?」 そう言って、指を浴槽に伸ばして温度を確かめる。 魔法はイメージが重要だ。温度なんて曖昧なものを正確にイメージするのは火の系統に類する才能が要る。だが、温度をそのままに錬金するなら火系統以外のドットクラスのメイジにだってできる。 そんな系統魔法の理屈がいまいち分からず、エルザはフーケの仕草に従って浴槽に満たされたお湯に目を向けた。 確かに、先程まで浮かんでいた小さなゴミが消えている。 「系統魔法って便利ねえ。わたしの魔法じゃ、こうはいかないわ」 ティファニアには気にするなとは言ったが、エルザも女の子だ。汚れた水で体を洗うのには抵抗がある。汚れた水が綺麗になったのを見て、少しホッとしていた。 「先住魔法は、こういうことは出来ないのかい?」 空いた桶で浴槽から湯を取り出したフーケが尋ねると、エルザは少しだけ頭を傾げた。 「うーん、わかんない。わたしが知ってる魔法はあんまり多くないし……。そこにあるものをそのまま操る、っていうのは出来ると思うけど、物を別の物に変えちゃうのは系統魔法の特権じゃないかしら?」 先住魔法のエキスパートであるビダーシャルがここに居れば、細かい説明も出来るのだろう。だが、エルザは全てを学ぶ前に両親を失っているし、吸血鬼自体、高度な先住魔法が使えるわけでもない。エルザには判断のつかない領域だ。 「そんなもんかねえ」 腰を下ろしたフーケが、桶に掬ったお湯で髪を梳かし始める。ティファニアも同じようにお湯を取り、金色の長い髪を洗い始めた。 血の繋がった姉妹ではないが、こうして同じことをしてると強い絆のようなものを感じさせる。今までサウナの風呂しか使ったことの無いティファニアがフーケの真似をしているだけなのかもしれないが、それでも、細かい仕草まで似ているのはなんとなく微笑ましいと感じられた。 だが、そんな感情もすぐにエルザの表情から消えて、嫉妬や憎悪といった暗いものが浮かび上がってくる。 血の繋がった姉妹ではないが、胸はどちらも大きい。体に巻いた布から覗く肌は、エルザのように日光から完全に隠れているために病的なまでに白いものではなく、日の光に僅かに焼けて健康的な色を保っていた。 髪を梳かすたび、腕の動きに合わせてぷるんと揺れる胸。 見下ろしたところにある起伏の無い平原と比べる度、エルザの平らな胸の中に黒い感情が渦巻いた。 だが、一つだけ希望がある。 胸の大きさ、張り、艶は今の自分には勝てるものではない。だが、それらを一瞬で台無しにし得るものがある。 おっぱいの先端についた、さくらんぼだ。 これの形が悪ければ、おっぱいの価値は激減。夢も希望も歪になるというもの。 そんなわけの分からない一抹の望みに賭けて、エルザの体は動いた。 「女同士で恥ずかしがってんじゃないわよ!こんなの、取っちゃえ!」 「え、きゃああぁぁぁ!?」 「な、なんだいっ!?なにすんだい、このガキ!!」 布を剥ぎ取る適当な理由をつけてエルザの両手がフーケとティファニアの体を覆う布にかけられ、勢い良く奪い取った。すぐに体を隠すティファニアとフーケに、エルザは鋭く視線を這わせてニヤリと口元を歪める。 「恥ずかしがるんじゃないわよ。それともなに?自分の体に自信が無いのかしら?」 明らかな挑発だ。ティファニアはエルザの言葉に激しく首を立てに振ったが、フーケは挑発をそのまま受け取り、ふん、と鼻をならして体を隠していた腕を放した。 二つの大きな膨らみがエルザの前に晒され、この場の誰よりも日に焼けているのに白く見える健康的な肌が惜しげもなく見せ付けられる。 「は、はんっ!これでも体には自信があるんだ。丸太と大して変わらない体つきのガキにあれこれ言われる筋合いは無いね」 そう言って胸を張ったフーケに、エルザは、ぐふ、と声を漏らして床に膝をついた。 完敗だった。いろんな意味で完敗だった。 仮初の希望だとは思っていたが、現実は非情だ。目の前にある肌は、女のエルザですらむしゃぶりつきたくなる色香を放っている。 先端がグロければ大きなおっぱいは台無し?バカな、ならばその部分のデザインが最高なら価値は倍じゃないか。いや、三倍だ! そして、目の前で見せ付けるかのように揺らされた夢と希望の膨らみは、その三倍の価値を見出させるものだ。 「ま、まだよ!まだ戦いは終わってはいない!そっちの小娘が残ってるわ!」 「無駄な足掻きだと思うけどねえ」 浴場の隅に隠れるように体を小さくしているティファニアに鋭く視線を向けて、エルザは両手をわきわきと動かしながらにじり寄る。 「ヒッ!?こ、来ないで!いやっ……姉さん!助けて!!」 縋りつくような視線をフーケに向けるティファニアだった。だが、無情にもフーケは首を振って、諦めろ、というような表情を見せ、体を洗い始めてしまう。 徐々に近付くエルザをティファニアは恐怖に染まった瞳で見つめる。 そして、運命の瞬間は訪れた。 「でええええいっ!」 「いやあああぁぁぁぁぁあ!」 若い娘を襲う習性を持つ吸血鬼の本領を発揮し、エルザの両手がティファニアの両腕を掴んで無理矢理に開かせる。 無理に体を開かされたティファニアが悲鳴を上げ、首を振って助けを乞うが、好奇心と僅かな希望に全てを賭けた幼い少女の視線は容赦なくその大きな果実を凝視した。 時間が、凍った。 夢と希望に詰まった胸は、やはり夢と希望がいっぱいだったようだ。 固まっているエルザをフーケはケラケラと笑い、ティファニアは早く手を放して欲しいと訴える。 「う、ウソよ……こんなの、ありえない……」 やっと動き始めたエルザが、瞳に映る光景を前に声を漏らした。 フーケのものが三倍なら、こっちは五倍か十倍か。完敗なんて言葉も消え失せてしまう。 新しい宗教でも生まれそうな感じだ。それも、世界を席巻しそうな巨大宗教だ。 「こんな、こんなことが……」 「あの、エルザちゃん?そんなに見られると、恥ずかしいんだけど……」 顔を真っ赤にしてティファニアが訴えるも、身を捩るたびに弾む奇跡の物体を希望と絶望の両方に染まった目で見るだけで、エルザはピクリとも動こうとはしなかった。 やがてフーケが体を洗い終え、いつの間にか浴槽に注がれるお湯が熱くなっていることに気が付いて外にいる地下水に文句を言い始める頃、全身をわなわなと震わせたエルザが動き出した。 「なによこれ!なんなのよこれ!ちょっと、わたしにも分けなさいよ!半分とは言わないわ!三割、いいえ、二割で良いわ!あなた一人で独占するなんてズルイわよ!!」 「そ、そんなこと言われても!あっ、ちょっ、エルザちゃん!?そんなふうに触っちゃだめよ!ああっ!」 飛びかかって二つの胸を弄ぶエルザをティファニアは必死に引き剥がそうとするが、腕力の強さに差があるのか、思うように行かず、二人は浴場の床を縺れ合いながら転がった。 フーケは再び地下水に氷を作らせてちょうど良い湯加減になった浴槽に膝下を沈め、縁に腰掛けてその様子を笑いながら眺める。 静かに風呂にも入れないのか、なんて無粋なことを言ったりはしない。同世代の友人の居ないティファニアには、こうやって無理矢理にでも遊びに引っ張っていくような人間が傍に必要だと、フーケはずっと思っていたのだ。 エルザでは少々教育に悪いが、こんな小さな村に閉じ込めて孤児の相手ばかりをさせているよりは良いだろう。貴重なイベントと思えば、少しは気分転換になるかもしれない。 そんなことを思いつつ、久し振りに盛大に笑ったフーケはぐっと腕を上に伸ばした。背筋が伸びる感覚が心地良い。 「ほら、あんたらもその辺にして、体を洗いな。夏が近いって言っても、裸で居たら流石に冷えるからね。風邪引いちまうよ」 腰に手を当て、言い含めるように告げるフーケに、エルザはティファニアから離れて残念そうに間延びした返事をする。 「まあ、いいわ。今日はこのくらいにしてあげる。十分堪能したしね」 「ううう、子供達にもこんなことされたこと無いのに……。姉さん、酷い」 呆然とするティファニアを置いて、一人立ち上がったエルザは両手を腰に当ててフーケと同じポーズで満足気に鼻を鳴らした。床に転がるティファニアは、助けてくれなかったフーケに向かって恨めしげに手を伸ばす。 そんなとき、フーケたちの耳に奇妙な足音が聞こえてきた。 夜中に孤児院の子供達が歩き回る、ということも少なくは無いが、それなら外にいる地下水の姿を見て悲鳴の一つも上げるだろう。そして、外部からの侵入者なら地下水が最初に警告を発するはずだ。 なら、この足音の主は、子供でもなければ侵入者でもない。 つまり。 「オレも混ぜろ!!」 素っ裸のホル・ホースだった。 「きゃあぁああぁあ!?」 「お兄ちゃん、いらっしゃーい!」 「なに入って来てんだい!このエロ狸!!」 勢い良く扉を開けて現れた男の姿に三者三様の反応を見せる女性陣。ティファニアは体を隠し、エルザは飛びつき、フーケは咄嗟に湯船から飛び出して桶の中に放った杖を手にして魔法を詠唱する。 得意の引き攣った笑みを浮かべたホル・ホースは、目の前の桃源郷をしっかりと目に焼き付けると、高らかに叫んだ。 「オレは天国に辿り着いたぞ!!」 それが、どっかの神父に先駆けてある種の極みに到達した男の、最後の言葉だった。 「よお、地下水」 「なんだ?ホル・ホースの旦那」 血と痣で歪に歪んだ顔のホル・ホースの呼びかけに、地下水は面倒臭そうに聞き返した。 「見て減るもんじゃねえから、別に良いと思わねえか?」 フーケたちが入っていた浴場に突撃した件だろう。 今、ちょうど二人はその現場に並んで座り、目の粗い布にフーケが学院から盗んできた石鹸を擦り付けて体を洗っているところである。放り込まれた、といったほうが正しいかもしれない。 本体が錆びる!と嫌がった地下水は、フーケに“固定化”の魔法をかけられて心配をなくした。傷もつきにくくなって、ちょっとご満悦である。 そのため、今の地下水はフーケたちの味方であった。 「脳味噌が膿んでるな」 容赦の無い冷たい返答に、ホル・ホースはガクリと首を曲げた。 「……まあ、いいか。目の保養にはなったし」 そう呟いて、首筋に恐る恐る石鹸の染みこんだ布を当てる。 声にならない悲鳴が響いた。 「大丈夫か?」 「あ、ああ。大丈夫だ。これくらいの痛み、大したことねえよ」 心配そうな声にあまり力の入ってない言葉で返すと、ホル・ホースはもう一度布を首筋に当てて、今度は歯を食い縛って走る痛みに耐える。 エルザの吸血行為に傷口を塞ぐ力は無い。そのため、何度も噛まれている場所は傷が塞がらずに奇妙な傷跡になって残っているのだ。 そこに石鹸が沁みるのである。 「っくああ!痛ってえええぇぇぇ……。なあ、地下水。テメエ、治癒は使えねえのか?」 ガリアに居たときは定期的にエルザの噛み跡をシャルロットに治してもらっていたのだが、別れてからは秘薬屋で買った傷薬を使うだけに止まっている。ラ・ロシェールで再会した際に治療を頼むのを忘れていたことを、ホル・ホースは今更ながらに後悔していた。 「残念だが無理だな。俺、攻撃専門だもん。というか、前に言ってなかったっけ?」 「記憶にねえよ」 ぷいと顔を逸らして、体を洗うのを再開させる。 なぜ、男二人で風呂に入らなければならないのか。そんな疑問を抱きつつ、二人は無言で体を洗う。 泡だらけになった体を桶に取った湯で流すと、ホル・ホースはぐったりと肩を落とした。 「フーケの姉ちゃんだけでいいから、一緒に入ってくれねえかなあ。こんなむさ苦しいヤツと湯船を一緒にするなんて、勘弁して欲しいぜ、まったく」 そう呟いて隣を見ると、ホル・ホースは更に気を落とした。 髪はぼさぼさ、髭もぼさぼさ、褐色の肌に服の上からでは分からなかった鍛え上げられた筋肉。ガチムチ過ぎる。せっかく目に焼きついたピンク色の情景が空の彼方に消えてしまいそうだった。 王子って格好かよ。と突っ込みを入れたくなる姿だ。 「……ん?」 あまり見たくはなかったが、なにやら奇妙なことに気が付いたホル・ホースは地下水の操るウェールズの体をじっと睨みつけるように眺めて、手を伸ばした。 「なんだこりゃ?」 もみ上げと髭が繋がっている部分で、肌がべろりと剥がれていた。いや、髭を生やした肌のイミテーションだ。 何をしているのかと目を向ける地下水を無視して、垂れ下がる肌色の何かを剥がし取ると、見事に顔を覆っていた髭が外れた。 「付け髭か?」 「……みたいだな」 地下水の問いに、ホル・ホースは頷いた。 良く見れば、ボサボサの髪もずれて、下から金色の髪が覗いている。石鹸で洗われた肌も褐色とは程遠く、何かを塗りつけて色を誤魔化していたらしい。つけていた眼帯も見せ掛けだけで、下には傷一つ無い正常な目が隠れていた。 「ほほー、変装してたのか。なるほどね。どう見ても王子様には見えなかったから、どういうことかと思ってたら、こういうことだったのかよ」 体を隅々まで洗って変装を完全に除去すると、凛々しい金髪の青年の姿が現れた。 これが本来のウェールズの姿なのだろう。王子と名乗って不遜のない、立派な青年の姿を見せている。 「そうなると……こっちも偽者なのか?」 ホル・ホースと地下水の視線が、下に向かった。 そこにあるのは象ではない。鋭い剣や大振りの槍と例えるのも愚かしいだろう。 自分では大きいほうだと思っているホル・ホースの股間のエンペラーが、まるで子供の玩具に見えるほどの巨大な大砲が、そこには鎮座していた。 ズボンの上から分からなかったのが世界七不思議の一つに入りそうなくらいだ。 「だな。流石にこれは偽者だろ」 「ありえねえよ。ティファニアの嬢ちゃんに匹敵するくらいにありえねえ。よし、確かめてみろ地下水」 自分で触るのなんて絶対にしたくないホル・ホースの指示に従って、地下水はウェールズの股間に手を伸ばした。 意識化で何度も悲鳴を上げているウェールズ本人のことなんてお構い無しである。 掴み。引っ張り。そして、捻る。 どこかでウェールズ本人の意識が死に掛けた。 「こ、これは……本物だと!?」 「バカな!こんなデカいのが、まだデカくなるって言うのか!?クソッ!アルビオンの男は化け物か!!?」 弄っているうちに血液が集まってきたらしい。別にそんな意図はないのだが、期せずして本物であることが証明されたようだ。 大砲は戦艦の主砲へ、そして大陸間弾道ミサイルと成長を遂げ、ついには核兵器を搭載するに至った。最早、ハルケギニアに敵は無いだろう。 敵だけでなく、味方をも滅ぼす最悪の兵器だ。こんなものを受け入れられるような人物がこの世に存在するとは思えなかった。 「馬鹿が……デカけりゃ良いってもんじゃねえことに、なんで気付かねえ!」 「そういうもんなのか?俺はてっきり、男のこれは女のものと一緒で、デカければデカいほど良いものだと思ってたんだが」 そんな地下水の言葉を、ホル・ホースは腕を振って否定した。 「それは甘い考えだぜ、地下水!ティファニアの嬢ちゃんのヤツはギリギリのバランスの上に成り立った芸術品だ!だが、こいつのものは違う!硬さやら持続性やらを調べる気にはまったくこれっぽちもなれねえが、もしも平均的な硬さを備えていたとしたら、受け入れる側の女は間違いなく内臓がずれる!大きくなり過ぎたんだよ!!」 ホル・ホースの脳裏には、ウェールズが将来迎えるであろう未来の妻がベッドの上で聞くに堪えない悲鳴を上げている姿が映っている。 最悪な光景だ。せっかく洗った体には、脂汗がびっしりと浮かび、顔も見たことのない女の姿から無意識に視線を逸らしてしまいたくなる。 「悪だ……こいつは、自分が悪であることに気付いていない、最悪の悪だ!……出来ることなら、この場で殺してしまうべきだぜ……。こいつは王子だ。王党派ってヤツが負ければどうなるかわからねえが、いつか女を迎える。正室だけじゃねえ、血筋を残すために側室だって取るかも知れねえ……いや、これを受け入れられる女が現れるまで、何度も女を不幸にするはずだっ!」 右手にスタンドの方のエンペラーを構えたホル・ホースに、地下水は刀身をカタカタと鳴らして冗談は止めろと訴える。 だが、ホル・ホースの目は本気だった。 エンペラーの引き金に人差し指が置かれ、照準がウェールズの頭部に向けられる。 「うおおおおおい!?勘弁してくれよ!!」 「動くんじゃねえ!狙いが逸れるだろうが!!」 せっかくの体を殺されては堪らないと暴れる地下水に合わせてホル・ホースも動き出す。 相手の動きを封じようと、拳が、蹴りが、頭突きが飛び出してお互いを傷つける。ナイフと拳銃の戦いは、長きに渡り、二人がほぼ同時に床に転がっていた石鹸に足を滑らせて後頭部を打ち付けるまで続いたのだった。 茹った顔を湿ったタオルで拭き、体温で温まった息を吐く。 後頭部がジンジンと痛むのを耐え、ゆっくりと視線を後ろに向けると、こちらを警戒する地下水の姿に溜息を漏らした。 「だから、悪かったって言ってるだろうが。あんな化け物を見させられたら、誰だって戸惑うだろうぜ」 「……信用できねえ。あのときの旦那の目はマジだった」 そう言って、地下水はじろりと据わった目を向ける。 エルザと違って着替えがあるわけでもないホル・ホースと地下水は、洗った体に汚れた衣服を身に着け、フーケたちが待っている家に向かって歩いているところだ。 流石にエンペラーを出したのは不味かったのか。スタンドが見えないとはいえ、殺気まで感じ取れないわけではないだろう。 地下水はホル・ホースに対して警戒心を抱いてしまったようだった。 こうなると暫くはどうにもなら無いだろう。 放っておくが吉と考えて、ホル・ホースは溜息混じりに後頭部をぼりぼりとかいた。 窓から明かりの零れる家の裏口、その取っ手に手をかけて、ホル・ホースは地下水をもう一度だけ見る。 フーケたちは驚くだろうか。 空賊の頭としか紹介していなかったから、地下水の操る体がこの国の王子のものだとは知らないはずだ。まさか、あのむさ苦しい男が現在の姿に変わるとは思っていないだろう。 そう考えてみると、なんとなく楽しみでもある。 森の中から流れる冷たい風が、火照った体を適度に冷やしていった。 長く止まれば風邪を引くだろう。 ホル・ホースは、フーケたちの反応を楽しみにしつつ、かけた取っ手を捻った。 「戻ったぜ」 「お帰り、お兄ちゃん!」 早速とばかりに飛びついたエルザを腕に抱いて、ホル・ホースは冷たい視線を突き刺してくる一人の女に意識を向けた。その途中でティファニアと目が合い、真っ赤になって顔を俯かせる姿にヒヒと笑う。 「ここにアンタの寝床は無いよ」 どういうことだ、と聞くまでもなく、フーケの指が玄関口に向けられて言葉の意味を示していた。 少しだけ空いた扉の向こうに藁の塊が用意されている。 アレがホル・ホースの寝床らしい。外で寝ろ、ということだろう。 「自業自得よね。今回はガマンよ、お兄ちゃん!」 「マジかよ……」 帽子を押さえてタラリと冷や汗を溢す。もう、温まった体は冷え切っていた。 浴場に突撃したことを内心でエルザも怒っていたらしく、助け舟は出してくれる様子も無かった。今夜は、本当に夜風に吹かれながらの睡眠を強制されるようだ。 「体が乾くまではここに居るんだね。そのままで放り出すほど、アタシも鬼じゃないさ」 「そいつはありがたいね。嬉しくって涙が出てきそうだぜ、チクショウ」 流石に肌が濡れた状態で外に放り出されたら体が冷え切ってしまう。凍死するということまではないだろうが、風邪を引くのは避けられない。体が乾いた後でも、寝藁で上手く暖を取れなければ一緒のことなのだが。 まあ、それでも覗きの罰としては軽いほうだろう。アレを覗きと言って良いのかどうかは微妙なところだが、多少なりとも嫌な思いをさせてしまったのなら素直に受け入れるしかない。 首筋に顔を埋めて肌を擦り付けているエルザの頭を撫で付けたホル・ホースは、ヒヒといつものように笑った後に後ろで待っている人物を紹介しなければならないことを思い出した。 裏口の扉の前から移動すると、待っていた地下水が家の中に入ってくる。 ぽかん、とフーケもティファニアもエルザも、目を丸くしてその姿を見つめていた。 「紹介するぜ。海賊の頭ことアルビオン王国第一王子、だったっけ?」 ホル・ホースが地下水に尋ね、地下水が言葉を返すよりも早く、答えが意外なところから返ってきた。 「……第一王子ウェールズ・テューダー」 「知ってるのか?って、まあ、知ってるわな」 声を発したのは、フーケだった。 アルビオン生まれなら王子の顔を見ていてもおかしくは無いだろう。わざわざ紹介するまでも無かったかと、ホル・ホースが自嘲気味に笑ったところで、家の中に漂い始めた不穏な空気に気が付いた。 フーケが冷たく、苛立ちを隠せない瞳でウェールズを睨みつけていた。 「アルビオンの王子がナイフの持ち物になってるのかい……。いい気味だねえ」 歪んだ笑みに、ティファニアが小さく悲鳴を上げる。 フーケとウェールズの間に何があったのか。いや、そもそも盗賊と王子にどんな関係が生まれるというのか。こんな辺境に孤児院を開いた理由や、ティファニアという人間とエルフのハーフを妹と呼ぶ理由。そして、フーケの本名らしい、マチルダという名前。 面倒事は嫌いだが、聞かないわけにもいかないだろう。 既にティファニアは何かを悟ったようで、ウェールズとフーケに視線を向けて思いつめたような表情を浮かべている。 エルザを下ろしたホル・ホースは、地下水を連れてテーブルについた。 水を人数分運んで来て欲しいとエルザに頼み、すっと息を吸う。 夜は、まだ終わらない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2182.html
5 アルビオンの長い夜 傭兵に絡まれながらもスカボローの港に辿り着いたルイズたち一行は、入国検査官に身分の証明を行い、それを経て町の一角にある宿に部屋を取っていた。 貴族というのは便利なもので、普通の平民が検問で面倒な手続きをしなければならないところを身分の証明をするだけで通過できてしまう。ルイズたちの場合は、魔法学院の生徒を示す伍芒星が刻まれたタイ留めが証明に当たり、ワルドはグリフォンの刺繍が施されたくらい色のマントがそれだ。使い魔、という身分の才人は付き人と言ってしまえば検査官は首を縦に振る。 お粗末な管理体制、といいたいところだが、国と国との間を行き来する人間をいちいち数えていたらきりが無い。国から出入国の制限が出されたり、スパイ容疑の欠けられた人物が近くに居るという情報でも流れない限り、大抵はこんなものだ。 スカボローの町はあまり大きくは無い。 アルビオンにおける通商交易の中心地と言えば聞こえはいいが、アルビオン自体が空中に存在していることから輸送費は膨大なものとなるため、交易自体が大規模化しないという問題を抱えている。 トリステインの港町ラ・ロシェールと違って、岩を削って町が作られているというわけでもないため、観光要所があるわけでもない。そのため、スカボローは小ぢんまりとしたささやかな町としての姿を誕生当時から維持していた。 僻地でもなければ大抵の場所にある貴族向けの宿は、そんな小さな町にも存在している。 一級のメイジが三年の月日をかけて作り上げたという高級貴族の屋敷を思わせる巨大な建造物を本亭とした“最も高き空”亭は、創業120年を掲げ、このスカボローで唯一と言って憚らない高級旅館だった。 とは言え、他の宿と同じように一階を酒場とする構造は変わらないようで、ルイズたちは情報収集や今後の予定を相談することも兼ねて一階の酒場に集結していた。 大きなテーブルを囲うルイズたちの元に、一時席を離れていたワルドが戻ってくる。 「どうでしたか」 そう尋ねたのはギーシュだった。 「思ったよりも王党派の状況は悪くないようだ。二、三日の内に決着が付くということは無さそうだよ。ニューカッスル地方に陣を敷いて貴族派と睨み合っているらしい」 情報収集に最も長けているであろうワルドが、近辺の住人に聞き込みをして回っていたのだ。 貴族の子女であるルイズたちは平民達に頭を下げたり、彼らから友好的な反応を得られるような話し方をすることは出来ない。軍か諸侯として治世の任に就けばそういう技能も身につくのだろうが、未だ学生の身であるルイズたちにそれを求めるのは酷だろう。一名ほど、処世術に長けた赤い髪の少女という例外はいるが。 「なら、明日はニューカッスルへ向かえばいいわね。ここからならタバサのシルフィードや子爵様のグリフォンで向かえるし、そう急ぐことも無さそうかしら」 アルビオンへ渡るには人数の問題でシルフィードは使えなかったが、ここでなら何人かをグリフォンに乗せることで重量を散らすことが出来る。馬を使うよりもずっと早く目的地に到着することが出来るだろう。 そう思ってのキュルケの発言に、ワルドも同意を示した。 「うむ。だが、のんびりとしてもいられないだろう。昼までには王党派と接触を持ちたいと思う。明日は朝食を取り次第出発するとしよう」 ワルドの言葉に一同は頷いて返すと、席を立った。 内戦中とあって客が少ないのか、空き部屋は多く、飛び込みでも部屋数を多く確保することが出来た。“女神の杵”亭ではワルドとルイズが相部屋となっていたが、今回はそれぞれが一部屋ずつ利用している。 ただ、それが味気ないのか、キュルケはタバサを部屋に招き、それならとギーシュが部屋の中でテーブルゲームでもしないかと誘いをかけた。 「サイトもミス・ヴァリエールも来ないかい?」 「ああ、行くよ。けど、ルイズが……」 足を止めたサイトが、席を立った状態で動かないルイズを見る。 “女神の杵”亭で自分が元の世界に帰るという話をしていたときよりも、沈んだ表情をしていた。 スカボローの港に到着する少し前から、ルイズはあの調子だった。 傭兵達の一件が尾を引いているのだ。 人の死を、いや、人が殺された瞬間を見るのは、才人は初めてだった。ルイズも、恐らくそうなのだろう。 ルイズはそれを、自分達の迂闊な行動が招いた結果だと考えていた。 どういう理由があるにしろ、王族殺しで指名手配されている人物と一緒に居るだなんてことは避けなければならなかった。たとえ、正体を知らなくても、だ。 脅迫されたことは許せないし、相応の罰を与えるべきだとも思っていた。だが、殺すことはなかったのではないか、とも思う。 ワルドはドノヴァンと名乗った傭兵を殺した後、船内に居た傭兵達を皆殺しにした。 一人残らずだ。 船長やスカボローに入港した後の船の検査に当たった検査官に金を握らせ、今回の一件を揉み消した。 それは、それほど珍しいことではない。 支配階級にある貴族を平民が脅した、というだけで重い罪状が加えられるし、ドノヴァンのように杖を奪おうとすれば、それは始祖ブリミルから与えられた魔法の力を踏みにじる行為として断罪される。 裁判を挟むことなく、平民は貴族に無礼を働いたという理由で殺される。それが、ハルケギニアの常識だ。 頭では理解していた現実。だが、ルイズはその当事者となったことで罪の意識から離れられないでいた。 高いモラルを両親の厳しい指導で培ったルイズにとって、それは常識という枠に当て嵌めてしまうことで有耶無耶に出来る問題ではないのだ。 殺さなければ、ドノヴァンはルイズたちを破滅の道に蹴り落としただろう。そんなことはルイズにも分かっている。だが、死という結末を迎えた後では、他に方法があったのではないかと考えてしまうのだ。 「ルイズ。少し、話がある」 ワルドの言葉に、ルイズは俯かせていた顔を上げた。 脱いだ羽帽子をテーブルの隅に置いたワルドが、いつかどこかで見たような懐かしい目をしてこちらを見ている。 「二人きりで話したい」 “女神の杵”亭でも言われた言葉だ。 関係をギクシャクとさせたルイズとワルドを二人きりにして良いものかと、才人は立ち止まってルイズに視線を向けた。 ルイズは才人に力なく首を振ると、大丈夫、と言った。 渋々といった様子で才人がキュルケたちと共に酒場を後にするのを見送って、ルイズはもう一度椅子に腰掛ける。 テーブルの上にはワイン瓶が二つ。それと木杯が六人分。 ワインの瓶は一つが空で、もう一つは栓も開けられていなかった。 空気の漏れる音が響き、未開封のワインのコルクが抜かれる。 ワルドは自分の木杯に半分ほど赤い液体を注ぐと、ルイズにも瓶を傾けた。 「いいわ。わたしはいらない」 「そうか」 栓を閉め、ワルドが木杯に口をつける。 少量のワインが喉を潤したところで、ワルドは息を吐いて天井を見上げた。 「聞きたいことが、あるんじゃないのかい?」 ルイズの肩がびくりと震えた。 少しの沈黙が訪れる。 ワルドはワインを舐めるように飲み、ルイズはテーブルを見つめていた。 息を漏らすような小さな声がワルドの耳に届いたのは、酒場の客の数が半分になった頃だった。 「ワルド。あなたは、人を殺すことに罪の意識を感じたことはある?」 ルイズの脳裏にあるのは、ワルドの魔法で黒焦げになったドノヴァンの姿だ。 悲鳴も上げず、自分が死んだことにも気付かないで、あの傭兵は命を落としたのだろう。 人の死ぬということは、こんなにもあっけないものなのだろうか。もっと苦しくて、悲しくて、辛いことなのではなかったのか。 少なくとも、ルイズは人の死が重いものだと学んできた。 しかし、人の死は想像したものよりも軽く、胸に刺さる痛みは罪の意識よりも感情の揺らぎの小ささにこそ悲鳴を上げている。 ワルドは、そんなルイズに視線を向けることなく少しだけ目を閉じた。 「ある。いや、あった、というべきかな」 魔法衛士隊は国の中枢で動く特殊部隊だ。王宮の警備や外国からの賓客を向かえるのは表の仕事で、実際には血生臭いことが多い。 戦争では真っ先に駆り出され、不穏分子の噂を聞きつければ排除に動き、王族を狙う暗殺者を相手にすることもある。 人の死は、魔法衛士隊にとって当然のことだ。 ワルドもこれまでに幾度となく人を殺めてきた。始めの頃は血の匂いに吐き、寝込む事だってあったし、もう嫌だと毛布に包まって夜を過ごしたこともある。 だが、時間と経験がそんな感情を削いでいった。 今のワルドには、人の命は大きな意味を持たない。金貨と天秤にかけて計算が出来るくらいだ。 「軍に在籍する以上、人の死は切って離す事の出来ないものだ。当たり前のように受け入れる必要があるし、出来なければ軍を抜けるしかない」 そこで、やっとワルドはルイズに視線を合わせた。 「ルイズ。人は人の死に慣れるものだよ。ただ、例外もある」 「例外?」 問い返すルイズに、ワルドは頷いた。 「身近な人の死、或いは、身近だと思う人の死だ。それだけは、何時まで経っても慣れる事が出来ない」 身近な誰かが死んだのだろうか。そう思ったルイズは、ワルドの境遇を思い出した。 ワルドの両親は共に亡くなっている。 父親は戦争で、母親は病で。今のルイズと同じくらいの年齢で軍に入り、若くして魔法衛士隊の隊長に上り詰めた。 ワルドほどの年齢で衛士隊の隊長を務めるというのは、中々出来ることではない。慢性的な人手不足に陥っているトリステインとはいえ、人選にはやはり経験の豊富な人材が好まれるのだから。 両親との死別は、ワルドの心に強い傷を作ったのかもしれない。その痛みを誤魔化すために、がむしゃらに働いてきたのだろう。 だから、今こうして衛士隊の隊長として、アンリエッタ王女の信任を受けているのだ。 ルイズはワルドと同じような境遇に晒されたとして、ワルドのように必死に戦い続けられるだろうかと自問した。 自信は無い。 家族が全て居なくなってしまえば、残るのは“ゼロ”の蔑称を受ける自分しかいない。 魔法が使えない自分では、ヴァリエール家を継ぐことなんて出来はしないだろう。出来たとしても、一体誰が認めてくれるというのだろうか。 いや、それよりも、果たして自分は家族の死を乗り越えられるのだろうか。 父が死んだらと思うと、悲しくなる。母が死んだと思うと、やはり悲しい。二人の姉のどちらが欠けても、自分は悲しみに何日も、何ヶ月も、もしかしたら何年も部屋の中に引き篭もってしまいそうだった。 想像するだけでも、胸が締め付けられるような気持ちになる。鼻の奥が熱くなってきてしまう。耐えようとしても、指先が震えるのだ。 そんなルイズの頭を撫で付けたワルドは、謝罪の言葉を口にして木杯を空にした。 「少し混乱させてしまったね」 囁くようなワルドの言葉に、ルイズは首を横に振った。 ワルドはワイン瓶を手に取り、その中身をルイズと自分の木杯に注いだ。 差し出された木杯をルイズは受け取り、喉を鳴らして中身を飲み干す。 息を吐く頃には、少し落ち着いたようだった。 「……取り乱して、ごめんなさい」 「いいさ。これでも懐は深いつもりだ」 そう言って、ワルドは自分の木杯に口をつけた。 舌に乗る程度の量を飲み、木杯をテーブルに置く。 「それよりも、君の聞きたいことはもっと別にあるんじゃないのかい」 ルイズが、少し赤くなった目でワルドを見た。 そして、また伏せる。 ワルドはゆっくり話せばいいと言うかのように、ウェイトレスを呼んで少しアルコールの強い酒を注文すると、自分の木杯に瓶に残ったワインを注いだ。 再び、沈黙が訪れる。 注文を受けたウェイトレスが、ワインを蒸留して作ったブランデーを運んでくる。値段は張るが、アルコールに酔いたいときにはワルドは好んでこれを飲んでいた。 まだ木杯に残るワインを飲み干して、ワルドはブランデーと一緒に運ばれてきた新しい杯に琥珀色の液体を少量だけ注ぐ。すると、ワインよりも少しだけ強い香りが漂った。 杯の中から立ち上る甘い香りを楽しむワルドに、ルイズは顔を上げた。 「わたし、平民を身近な人間だと認識していなかったのかしら」 「何故、そう思うんだい」 木杯を少しだけ傾けて、唇を濡らす。 「……サイトを呼び出したとき、わたし、どこの誰かも分からない平民を呼び出したことに苛立ってばかりで、サイトこと、何も考えてなかった。サイトにも家族が居る。突然消えてしまったサイトを、才人の家族はきっと探してるわ。昼間の傭兵にも家族が居るはずよね?お父さんと、お母さんが居て、わたしたちは生まれてくるんだもの。きっと、突然消えてしまった子供を捜して泣いているわ」 顔を覆うように両手を当てて声を震わせるルイズを、ワルドは杯を傾けながら見つめた。 「サイト君を呼び出すべきではなかった。昼間の傭兵を殺すべきではなかった。そう言いたいのかい?」 ルイズは首を振った。 「違うわ。責任を持たなければならないということに気が付いたのよ。サイトのこともそうだけど、昼間の傭兵だけじゃない、わたしたちの身近に居る全てのことに、わたしたちは責任を負わなければならない。そのことに、わたしはなにも気付いてなかった」 家に帰りたい。そう才人は最初から言っていた。なのに、自分は才人を拘束し、自分の都合のいいように“躾”と称して鞭を振るったのだ。 衣食住の面倒を見るのは、才人から帰る家を奪った自分の責任だ。才人を使い魔として働かせるなら、彼の同意と相応の待遇を提供するのが当たり前の行為のはず。それすらも怠って、最低限責任を負わなければならないはずの部分を盾に才人を利用している。 他の平民に対してだって同じだ。 貴族という立場を利用して力ない平民達を好き勝手に扱っている。魔法学院で起きた才人とギーシュの決闘騒ぎも、そんな傲慢な考えから起きた騒動だった。 騒ぎの発端となったメイドの少女に非は無い。彼女は、自分に出来ることをしたし、それは誰かから責められるような行為ではなかった。それを責めたのは、傲慢な思想そのものだったはず。 そこまで考えたルイズに、ワルドは小さく笑った。 何故笑われるのか、それを理解できずにルイズは目を丸くする。 「君は、貴族と平民の差について悩み始めているようだね。だが、考え違いを起こしてはいけないよ。確かに、平民と貴族には明確に立場の差がある。だが、それはこのハルケギニアの長い歴史の間で積み上げられてきた、れっきとした制度だ」 「でも……」 言いよどむルイズに、ワルドは杯を置いて姿勢を正した。 「全てのことには責任が付きまとう。その考えを否定する気は無いよ。でも、君の考える対当な関係というのは、目先の対当さでしかない。僕達貴族は、普段から一定の責務を抱えることで君臨を許されているのは分かっているね。そして、それは、一種の権力として反映されてしかるべきものだ」 ルイズは少しだけ考えて、頷いた。 父が毎日のように領民のことを考え、より多くの人々が幸せに暮らせるように働いている姿を見てきている。もし、領内で問題が起きたとき、その責任を問われるのは領地を任されている父自身だ。ルイズも、教育を受ける過程で幾度となく権利と義務については教え込まれてきた。 贅沢なら暮らしが許されるのは、家柄良いからではない。家柄を良く保つために努力を怠らず、国のため、民の為に身を粉にして働いてきたからだ。 「平民達は貴族から享受される平和と安定した生活の代償として、税を納め、貴族達に頭を垂らす。横暴な振る舞いすら許せとは言わないが、多少の我慢を強いるくらいは、貴族の権利と言えるのではないのかい」 国は魔法によって成り立っている。それは、平民が金で貴族にゲルマニアでも変わりはしない。生活の基礎は勿論、ハルケギニアに存在する数多の獰猛な生物から人々を守るにはメイジの力が必要となる。 「ルイズ。君が言いたいのは、貴族と平民が同じ物差しを持つべきだ、ということなんだと思う。でも、測るべきものは貴族が血と汗を流して手に入れたものだ。同じ物差しを使えというのは、貴族に平民よりも抑圧された環境で生きていけというようなものだよ。それでは、貴族が痛い思いをするばかりだ。これは、対当とは言えないと思わないかな」 ワルドは杯の底に揺らぐ琥珀色の液体を喉に流し込んだ。 「権利や義務というのは、往々にして目に見えない形だからね。金貨のように数や重さで測ることは出来ない。そのせいで大きさを間違え易いのさ。君の悩みである平民と貴族の差についても、曖昧な部分が多い。だから、悩んで悩んで、悩み抜けばいいさ。君なりの答えがどこかにあるはずだからね」 「ワルドさま……」 表情を少しだけ明るくしたルイズが、胸の前で両手を組んでぼうっとワルドを見つめた。 いつか見た懐かしい眼差しに、ワルドは顔を背ける。 空の木杯に、ブランデーが再び注がれた。 「君がこれからどうするかまで口を出す気は無いよ。でも、昼間のことは、もう忘れるべきだ。旅の間に起きた一切の責任は、僕と、任を与えた王女殿下が負う。今回の件は身を守るための不可抗力でもあるんだ。時折、今のように悩めば、それでいい」 「……はい」 気が抜けたように椅子の背凭れに寄りかかったルイズを見て、ワルドは笑みを浮かべた。 悩みが解決したわけではないが、胸の痞えは取れたのだろう。スカボローに着いてから見ることの出来なかった、普段のルイズの姿がそこにはあった。 ワルドはブランデーの瓶をルイズの木杯に傾けて、少しだけ器を満たす。 二人は琥珀色の液体を同時に飲み干した。 喉の奥が熱くなる感覚に、ルイズが溜息を漏らす。仄かに頬が紅潮し、幼い少女に色香のようなものが漂っていた。 「君は賢い。多くの貴族が、享受するに相応しくないほど大きな物差しを持っていることを知っている。君も、自分が大き過ぎる物差しを持っていることに気付いた。なかなか出来ることじゃない」 「買い被りです……。この年になって、やっと貴族としてのスタートラインに立った気がするんです。父や母を思うと、まだまだ小娘だと感じますわ」 緊張の糸が途切れてすぐにアルコールを飲んだため、早速酔ったらしい。ルイズの顔が徐々に赤くなり、時々宙を見つめて動かなくなる。 「君のご両親はハルケギニアでも有数の貴族だ。同じ場所に立つには、相応の年月が必要となる。急ぐことは無いさ。でも、その姿勢は賞賛に値する」 ルイズと自分の杯に瓶に残った最後のブランデーを等分に注ぐと、ワルドはウェイトレスを呼んで追加を頼んだ。 静かに、木杯を傾ける時間が過ぎる。 杯の中の中身が無くなる頃、ワルドは唐突に切り出した。 「こんなことを言っても信じてはもらえないだろうが、“女神の杵”亭で語った僕の気持ちは本心だ」 ルイズも杯の中身が無くなって手持ち無沙汰になったのか、ワルドの言葉に顔を上げて艶やかに微笑んだ。 「魅力が無いってこと?」 「茶化さないでくれ。アレがそういう意味じゃないことくらい、君にだって分かっているだろう」 苦々しい記憶にワルドが顔を顰める傍らで、ルイズが笑い声を漏らした。 「プロポーズのことだよ。僕の気持ちはまだ変わっていない。誤解はあったし、大人気ないことをしたとも思う。だが、それで諦められるほど簡単な気持ちじゃあないんだ」 テーブルの上に乗り出してルイズに近寄ったワルドの言葉に、ルイズは視線を下に向けて首を振った。 「あなたの気持ちは嬉しいけど、わたしにとってはやっぱり憧れみたいなものなの。好きか嫌いかって聞かれたら、好きって言えるけど、それ以上でもそれ以下でもないわ。だから、ごめんなさい」 立ち上がったルイズは一度だけワルドに向かって頭を下げると、アルコールでおぼつかない足取りのまま奥の階段を上っていった。 ワルドはその姿を見守ると、木杯を呷ってその中身が無いことに気が付いた。それを見計らったかのようにウェイトレスがトレイ片手に姿を現す。 「追加、おまちどうさま」 追加のブランデーをテーブルに置いて、素朴な様相のウェイトレスは去って行ったルイズとワルドを交互に見て小さく笑った。 「振られたみたいですね」 「そのようだ」 自嘲気味に笑ったワルドは、手に取ろうとしたブランデーの瓶を横から攫われて眉を潜めた。 視線の先でウェイトレスがニコニコと笑っている。 「私、今日はこれでお仕事終わりなんです。よろしければ、ご一緒させてくださいな」 魔法衛士隊の隊長となってからは、似たような誘い文句を幾度となくかけられてきた。 普段なら断る場面だったが、今日だけはこのウェイトレスの少女の裏表の無い笑顔が心地よく感じられて、ワルドは思わず首を縦に振った。 ルイズの座っていた席に腰を下ろしたウェイトレスは、ブランデーの瓶をワルドの杯に傾ける。そして、自分もルイズが使っていた木杯に琥珀色の液体を注ぐと、互いの杯をぶつけて、乾杯、と謳った。 あっという間に、杯の中身を飲み干すウェイトレスを見て、ワルドも対抗するように杯を空ける。 「ぷはっ、んーおいしー!」 貴族のような気取った飲み方をしない、本当に酒を美味そうに飲む少女だった。 見ているだけで腹がいっぱいになりそうだが、悪い気分ではない。 今夜は、深酒を避けられそうに無いな。 そんなことを思って、ワルドは笑みを深めた。 夜は更けていく。 アルビオンの辺境の森に隠れるように存在するウェストウッド村も、深い闇に包まれて静けさに包まれつつあった。 数えるほどしかない建物の中、その内の一つだけが明かりと共に幾人かの話し声を漏らしている。 大人と子供の入り混じった声だった。 「やっぱりねえ。騎士なんてガラじゃないと思ったんだ。クビになって正解さ」 そう言って、フーケが木杯に注がれたワインに口をつけた。 家の大きさとは不釣合いな大きなテーブルと十を越える椅子の数。部屋数は少なく、玄関口と繋がるリビングルームを中心に二部屋といったところだろう。住んでいる人間の数よりも明らかに多い家具の備えは、村自体が一種の孤児院で、この家を子供達の集まる場所としているからだ。 フーケの向かいに座っているのはエルザだった。 同じようにワインに満ちた木杯を手に、剣呑な表情でちびちびと飲んでいる。 視線の先には倒れ付したホル・ホースの姿があった。 「あれこれと世話を焼いてくれる使用人も多かったから、居心地は良かったけどね。その分制約も多かったし、性に合わなかったのよ。それに何より、変に活躍すると、このろくでなしがすぐ他の女に走るんだから!このっ!このっ!」 小さな足で倒れたホル・ホースの頭を何度も踏みつける。それと同時に、フーケも足を伸ばして頭頂部を蹴り飛ばしていた。 「ま、マチルダ姉さんもエルザちゃんも、そこまでしなくても……」 同じテーブルを囲んで果実を絞ったジュースを飲んでいたティファニアが、恐る恐る止めに入る。 すぐに鋭く殺気の籠もった視線が返って来た。 「いいや!こいつはどうせ反省しないんだ!こういうときに痛い目に合わせないと、また同じことを繰り返すよ!」 「そうよ!ちょっと大きいからって、いきなり女の子の胸を鷲掴みにするなんて!頭がおかしいとしか思えないわ!そういうことする人じゃないと思ってたのに!!」 そう言って、さらに蹴る力を強めていく。 ホル・ホースが床に倒れ、非道な扱いを受けているのには訳があった。 ティファニアの胸、である。 大きいのだ。それも、普通の大きさではない。細い体に何故こんなものが乗っているのかと思うくらい大きい。エルザの頭くらいはある。いや、下手をすれば、もっとある。 長い女断ちの期間で溜まっているものを我慢を続けているホル・ホースは、その大きな夢と希望の果実を見るや否や、自然な動作で鷲掴みにしたのだ。 捏ね繰り回すように揉みしだいた時間、実に五秒。 何をされているのか分からず呆然としていたティファニアが悲鳴を上げたのと、突然の事態に動きが止まっていたエルザとフーケが動き出したのは、ほぼ同時だった。 両頬を挟むように繰り出された拳を頬にめり込ませ、しかし、それでも満足そうな笑みを浮かべたままホル・ホースは気絶したのである。 「馬鹿よ!大馬鹿よ!こんな脂肪の塊に誘われちゃってさ!こんな……こんなの……ただの脂肪じゃない!目の前でこれ見よがしに揺らしてんじゃないわよ!!」 「そんなつもりは……あうぅ」 ホル・ホースとほぼ同じように両手でティファニアの胸を鷲掴みにしたエルザが、不満そうな顔で巨大な母性の象徴とも言われるものを乱暴に捏ねた。捏ね繰り回した。 「大きければいいとでも思ってんの!?こんな、張りがあって、形も良くて、色白で、吸い付くような肌で、感度も良くて、反応も初々しくて……舐めんじゃないわよ!!」 先端の部分をギュッと摘んで力を入れる。ティファニアの頬が赤くなり、声にならない悲鳴を漏らした。 「こんなのでお兄ちゃんを誘惑するなんて……馬鹿にしてるわけ!?わたしのこの体を見て嘲笑ってるんでしょ!?悪かったわね!ほぼ円柱で!ごめんなさいね!膨らみもなにもなくて!これ、ちょっとわたしにもわけなさブヘッ!?」 エルザの後頭部にフーケの鋭い拳が飛んだ。 「あんた、これで二回目じゃないかい!反省しないのはあんたも一緒か!?」 「……だって、三十年生きてるわたしがこの姿で、二十年も生きてないエルフのハーフがこれって、おかしくない?成長し過ぎよ」 倒れ付すホル・ホースの上に転がったエルザが、殴られた頭を抑えて頬を膨らませた。 ティファニアは母をエルフ、父を人間とした混血児だ。血が混じったことで寿命に変化が生まれたのか分からないが、成長は人間と同じようで、エルザのように寿命に見合った成長速度をしているわけではないらしい。 そのことに、エルザは不満たらたらだった。 「不公平よ。わたし、単純計算で人間の六分の一くらいの成長ペースよ?成長期に入ったからこれからどうなるか分からないけど、このままだとコレになるまで100年近くかかることになるじゃない」 再びティファニアの胸に手を置いて、おかしいわよ、と言うエルザに、フーケは知ったことかと木杯に残るワインを喉に流し込んだ。ついでにホル・ホースの頭を蹴り飛ばすのも忘れない。 空になった木杯をテーブルに置いて、視線を部屋の隅に向ける。そこには、一心不乱にナイフを磨いている地下水の姿があった。むさ苦しい様相にフーケの眉が寄る。 「せっかくの一時帰郷なのに、なんであんた達みたいな疫病神と係わり合いになっちまうかねえ。なにやってたか知らないけど、汚いし、臭いし、変なの増えてるし」 「悪かったわね。ホントはラ・ロシェールでちょっと休むつもりだったのよ。服の代えも買う予定だったけど、賞金稼ぎに追い回されてそんなことも出来なかったし。ああ、ヴェルサルテイル宮殿のお風呂が懐かしいわ」 両手を顔の横で組んで、エルザは記憶にある豪華絢爛な王族用の浴場を思い出した。 百人近く同時に入れそうな巨大な浴槽に香木や香草を浮かべ、専用に調合された石鹸を上等の絹に染みこませて使用人たちに洗ってもらうのだ。どう考えても騎士の身分が得られる待遇ではないが、大抵イザベラと一緒に入っていたので、ついでに洗ってもらっていたのである。なお、イザベラの許可は貰っていない。強引に入り込んでいたのだ。 そんな生活から離れたのは最近の事とはいえ、エルザの肌からはもう甘い香りは立ち込めないし、髪も手入れを怠っているので艶を無くしかけている。以前からの一張羅である白いドレスは所々解れ、汚れが染み付いていた。 そろそろ、しっかりと体を洗いたい気分だ。 そんなエルザを見て、ティファニアは手を叩いた。 「それなら、わたしたちのお風呂に入りませんか?貴族様が入るようなものほど立派じゃないけど、お湯に浸かるのはとっても気持ちいいですよ」 「ちょっと、ティファニア!?」 「いいじゃない、マチルダ姉さん。せっかく作ったんだから、使わなきゃ損よ」 止めるフーケに、ティファニアは笑顔で返して裏口から出て行ってしまう。 後姿を見送ったエルザはフーケに視線を送り、首を傾げた。 「ここ、お風呂があるの?サウナじゃなくて?」 ハルケギニアで平民用の風呂といえば、狭い部屋に熱した石を用意し、水をかけて高温の蒸気を作り出すことで汗を浮かばせ、最後にタオルで体を拭くサウナ形式のものが一般的だ。それ以外に身を清める方法と言えば、濡れたタオルで体を拭くか、水浴びくらいのものである。 しかし、ティファニアは湯船の存在があるようなことを言っている。つまり、貴族が使うようなお湯を用いた浴槽を用いた風呂があるということだ。 フーケは少し赤く染まった顔で頬をかくと、テーブルのワインの瓶を木杯に傾けた。 「ああ、そうだよ。造ったのはつい先日さ。学院で暫く働くとなると、定期的に休みも取れるしね。長期休暇でここに戻ってきたときに、あったらいいな、と思って造ったのさ」 トリステイン魔法学院にも風呂はある。使用人たちにはサウナが用意されているが、学院に通う貴族の子弟用に大浴場が地下に整備されているのだ。使う人数が多いため、その規模は王族のものと遜色ない。 フーケも利用した経験があるのだろう。何度か使っている内に癖になって、故郷ともいえるこの場所に作っておきたくなったのかもしれない。幸いにして、土木建築に秀でた土系統のメイジであることも手伝って、実行に移してしまったのだ。 「石鹸は?体を洗うものが無いと、せっかくのお風呂も魅力半減よ?」 「心配要らないよ。学院のをちょろまかしてきた。向こうも数を使うからね、幾つか無くなっても気が付きゃしないさ」 フーケの言葉にエルザが笑みを深めた。 一度知ってしまった贅沢は中々止められない。ガリアを出てからというもの、水浴びやサウナで体を洗うのがちょっと苦痛に思っていたところだ。 久し振りのお湯を使った風呂にエルザの胸が躍る。 気を良くして部屋の中をチョロチョロと歩き回っているうちに、ティファニアが戻ってきて困ったような表情を浮かべた。 「ごめんなさい。夕方に子供達を入れたからお湯が汚れちゃってて、沸かし直すと時間がかかりそうなんだけど、いいかしら?」 湯の張替え、なんて贅沢なことをするのは珍しいことだ。水は貴重だし、近くに水源があったとしても風呂釜を満たすほどの水量を運ぶのは大変のはずだ。 エルザたちを客人として迎えている証明なのだろうが、そこまで気を使ってもらうつもりはエルザにはなかった。 「水はまだ抜いてないわよね?なら、そのまま入っちゃうわ。手間をかけさせるつもりは無いし、体を洗えるだけでも御の字よ」 「でも、お誘いしたのはわたしなのに……」 しゅんと縮こまるティファニアを見て、エルザは小さく溜息を漏らした。 今時珍しいくらい純真で素直な良い子だ。自分のような存在が傍にいて良いのかと思うくらいに。 だが、これでは将来苦労することになるだろう。この小さな村の中に閉じこもっている間は良いだろうが、外に出ると純真さが破滅を誘うことになる。 すっと視線をフーケに向けると、似たような思いを抱いたことがあるのか、すぐにエルザの視線の意味に気付いて肩を竦めた。 矯正しようとしたのかは分からないが、ティファニアの性格はそう簡単に変わるものでもないらしい。根っこの部分から良い子ちゃんなのだろう。 そんなティファニアを守るためにフーケが居るのだと思えば、なんとなく納得もできた。 「なら、アタシも一緒に入るよ。多少の汚れは魔法で何とかなるからね。ティファニアも今日は入ってないだろう?なら、一緒に入っちまいな」 「でも、そうすると火の番が……」 電子制御されたハルケギニアにはボイラーなんてものは無い。当然、釜に入れられる湯は人力で沸かすのだ。 ティファニアは自分がその役目に就こうとしていたらしい。 そんな懸念に、フーケは部屋の隅にいる人物に目を向けることで解消させた。 「地下水、だったっけ。インテリジェンス・ナイフのアンタなら、変な気は起こさないだろう?火の番を任されてくれないかい」 「……ん、了解したぜ」 ちょうど本体の刀身を磨くのも終わったらしい。ゆっくりと立ち上がると、鏡のように光りを反射する本体の姿に見入って、ほう、と溜息をついていた。 この様子なら女の体になんて興味はないだろう。 立ち上がって自室と思われる部屋から下着の代えを用意したフーケが、ティファニアにも同じように着替えを用意させた。エルザには孤児院の子供のために用意してある予備の服を引っ張り出してきた。 安物の生地だがなんとなく悪くない気がして、エルザは差し出された着替えを素直に受け取る。 「そういえば、ここのお風呂って三人も入れるの?」 エルザの疑問をフーケは鼻で笑った。 「ここをどこだと思ってんだい。孤児院だよ。ガキの面倒を見るのに一人ずつ相手にしてたら日が暮れちまう。大人が五人は入れるように造ったから安心しな」 「ふーん」 気の無い返事を返したエルザだったが、表情を見れば浮かれているのが良く分かる。 話だけをすると相応の年齢を感じさせるが、表情や行動を見ていると子供が背伸びをしているようにしか見えない。 そんなことに気が付いて、フーケは自然と笑みを浮かべた。 それぞれに着替えを手にして、フーケたちが家から出て行く。 風呂場は裏手にあるらしく、着替えはそこで出来るようだった。 ティファニアの胸を直接見てやると意気込むエルザに、困った様子を見せるティファニア、暴走しかけるエルザを止めるフーケとその後ろで黙々と歩く地下水。 どことなく、仲の良い家族を思わせる光景だった。 だが、彼女達は忘れていた。 今ここで、ケダモノが一匹聞き耳を立てていたことを。
https://w.atwiki.jp/zensize/pages/789.html
【作品名】コードギアス 反逆のルルーシュ 【ジャンル】アニメ 【名前】枢木スザクwithランスロット・アルビオン 【属性】ナイトオブゼロ 【大きさ】5.15m 【長所】パイロット本人の強さ 【短所】罰が欲しいだけの甘えん坊 参戦 vol.1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/491.html
依頼! 風のアルビオンを目指せ! その③ 早朝、ルイズ達は馬に鞍をつけ準備をしていた。するとギーシュが提案する。 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 地面からジャイアントモールのヴェルダンデが出てきて、ギーシュは「僕の可愛いヴェルダンデ!」と抱きつく。 だが地中をかなりの速度で掘り進めるヴェルダンデとはいえ、行き先は『アルビオン』だからとルイズに却下される。 で、却下した相手をヴェルダンデは押し倒した。 「ちょ、ちょっと! 何なのよこのモグラ!?」 ルイズは身体をモグラの鼻で突き回され、地面をのたうちスカートが乱れたりした。 「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」 「薔薇に棘がある理由はどーした」 冷静なツッコミを入れる承太郎だが助ける気も鑑賞する気も無く、ただ呆れているだけ。 ルイズはモグラが姫様からもらった指輪に鼻をくっつけてきたので本気で怒り出した。 「この! 姫様から頂いた指輪に!」 「なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。 よく貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」 「なるほど『土』系統のおめーにとっては相当役立つ使い魔って訳だ」 「そうなんだそうなんだ! さすがジョータロー話が解るゥ!」 その時、一陣の風が舞い上がりヴェルダンデを吹き飛ばした。 「なっ、何をするだァ――――ッ! 許さん!」 ギーシュが杖を抜いてわめく。 承太郎は静かに風の起こった方向を睨んだ。 『敵』ならヴェルダンデごとルイズを傷つけるに違いないが、ルイズは無傷。 現れた長身の羽根帽子男は敵ではないだろう……と承太郎は判断した。 羽根帽子の男は一礼をして名乗る。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行する事を命じられてね。 君達だけではやはり心許ないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつける訳にもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」 帽子を取ったその男はルイズ達より十歳は年上と思われるダンディな髭の男だった。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 すまない……婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬフリはできなくてね」 「……婚約者…………?」 承太郎は疑いの眼差しでワルドと、ルイズを見た。 ルイズは確か十六歳のはずだ。まあ、婚約者がいてもいいだろう。 だがワルドはどう見ても十歳くらい年上だ。まあ、歳の差カップルもあるだろう。 ロリコンか、ヴァリエール公爵家の家名目当てか。 ルイズは自分を助けてくれたのがワルドだと解ると、信じられないといった面持ちで駆け寄り抱きしめられた。 そしてルイズは感動の再会を楽しんだ後、承太郎とギーシュを紹介する。 こうして彼等はアルビオンへと旅立つ事になった。 ちなみにヴェルダンデは「行き先はアルビオンだから」という理由で置いてく事に。 ――トリステイン魔法学院、学院長室。 オスマンが水パイプを吸っていると、コルベールが部屋に飛び込んできた。 「いいいい、一大事ですぞ! 城からの知らせです! チェルノボーグの牢獄からフーケが脱獄したそうです! 門番の話ではさる貴族を名乗る怪しい人物に『風』の魔法で気絶させられ――」 コルベールの話をまとめると以下のようになる。 魔法衛士隊の中に裏切り者がいて、そいつが脱獄の手引きをした。 なるほど確かに大変だ。 「じゃが我が学院には何の関係も無いのう。 宝物庫はより頑強に修理したし、もう破壊の杖は盗ませんよ」 「それはそうですが……」 「ところで紙タバコの試作品はできたかね?」 「いえ、まだです」 何だかんだで平和な学院だった。 ルイズとギーシュ(と承太郎)が授業を休んで早朝から出かけた事は知っていたが、その中に裏切り者がいると噂の魔法衛士隊の隊員がいるなんて知る由もなかったし、 仮に知っていたとしても裏切り者が狙ったかのように同行してるなんて思わなかった。 アルビオンへ向かうルイズ一行。 さてここで誰が何に乗っているか記しておこう。 承太郎、学院の馬。 ギーシュ、学院の馬。 ルイズ、ワルドの膝。 ワルド、自前のグリフォン。 道中、ワルドは甘いささやきを繰り返し、ギーシュは愚痴を繰り返した。 ルイズはワルドの甘いささやきを聞きながら、チラリ、チラリと承太郎を見る。 承太郎は無言で馬の進路を見ているだけだった。 その反応が、ちょっと癪に障る。理由は解らなかった。 「やけに後ろを気にするね。まさか、どちらかが君の恋人かい?」 ワルドは笑いながら、しかし真剣な眼差しで言った。 「こ、恋人なんかじゃないわ」 「そうか、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたらショックで死んでしまう」 「で、でも……親が決めた事だし……」 「おや? 僕の小さなルイズ、僕の事が嫌いになったのかい?」 「嫌いな訳ないじゃない」 ワルドは憧れの人だ。 幼い日、婚約の正しい意味を知らなくとも、彼がずっと一緒にいてくれると思って、嬉しかった。 今ならその意味が解る、結婚という意味が解る。 アンリエッタ姫の政略結婚とは違う、自分達の結婚を――でも――。 ルイズは何だかとっても複雑な気持ちになる。 ワルド――憧れ――婚約――嫌いじゃない――結婚――…………。 そんなこんなで港町ラ・ローシェルに到着する。 ラ・ローシェルは山道を越えた峡谷に挟まれるようにあった。 岸壁を彫刻のように彫った建物が多数見受けられる。土のメイジが作ったのだろうか。 しかし港町なのになぜこんな山地にあるのか……承太郎は天を仰いだ。 一際高い山に、小さな異物を見つける。スタープラチナの目で見ればそれは船。 (なるほど……空を飛ぶ船という訳か。やれやれ、じじいと一緒でなくてよかったぜ) 祖父ジョセフ・ジョースターと同行してたら必ず墜落する運命にあると承太郎は思った。 結局、一緒に飛行機に乗って無事だったのは、エジプトから日本に帰る時の一回切りだ。 一行はラ・ローシェルで一番上等な『女神の杵』という宿に入った。 と、そこでいきなりの歓迎を受ける。 「ハァ~イ、遅かったじゃない」 「きゅ、キュルケ!? 何であんたがここにいるのよ!」 一階は食堂になっていて、タバサもキュルケと同じテーブルで本を読んでいた。 キュルケはいきなりワルドににじり寄る。 「お髭が素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 ワルドはキュルケを拒絶するように左手で押しやる。 「婚約者が誤解するといけないので、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見るワルド。赤くなるルイズ。つまらなそうな顔をするキュルケ。 「婚約者? あんたが? …………。ジョータロー! あなたを追いかけてきたのよ!」 即座に矛先を変えてキュルケは承太郎の腕にしがみついた。 いくら追い払ってもやめない事はすでに承知しているので、承太郎はげんなりとした口調で問う。 「キュルケ……何でてめーがここにいる」 曰く、朝方窓から見てたらルイズ達が出かけるのが見えたため、タバサに頼んでシルフィードで送ってきてもらったそうだ。 先程の言動から狙いは新たな恋の相手ワルドだったようだが、あっさり振られたため承太郎に戻ってきたようだが、 承太郎も最初から相手にしていないので結局キュルケの相手は誰もいないも同然だった。 哀れキュルケ。いつか君にも素敵な相手が現れるさ。 太陽のような輝きを持つ、強くて優しくて研究家のナイスガイが! コーラを飲んだらゲップが出るってくらい確実に! 宿屋の食堂で承太郎達がくつろいでいると、桟橋へ乗船交渉へ行ったワルドとルイズが帰ってきた。 アルビオン行きの船は明後日にならないと出ないらしい。 仕方ないからそれまでの間この街で時間を潰す事となり、早速ではあるが宿の部屋割りがワルドによって決定され鍵を渡された。 キュルケとタバサが同室。まあ親友同士だし一緒に来たし文句無しだ。 承太郎とギーシュも同室。まあ男同士だし特に問題ない。 ルイズとワルドは同室。まあ婚約者だから当然ではあるが……ルイズはかなり動揺。 そしてルイズとワルドは同じ部屋へと消えていった。 承太郎は食堂に残って食事を続ける。タバサも見かけによらず大食いなのか食事を続ける。 向かい合って黙々と食事をする承太郎とタバサは何とも不気味であった。 キュルケはどうしたものかしらと思いつつワインを飲む。 ギーシュはもう腹がふくれていたため、ぼんやりと頬杖をついていた。 「しかし、まさかルイズに婚約者がいたとはなぁ……」 「あら、ルイズにも手を出そうとしてるって噂は本当だったのかしら?」 ギーシュの呟きに乗ってきたのはキュルケ一人だった。 他二人は黙々と食べている。 「やれやれ、何でそういう勘違いをするかな。単純に驚いただけだよ。 それにしてもルイズにはできすぎた婚約者だな。 女王陛下の魔法衛士隊でグリフォン隊隊長……憧れるよ」 「でもあんな髭ヅラのおじさん、私ならお断りよ」 ここまでルイズ達を追いかけてきた最初の理由はすっかり忘却の彼方らしい。 「まっ、確かに年上すぎるかな。何歳なんだろうね? 三十には届いてないようだが」 「大人の殿方っていうのはね、ジョータローくらいの年齢が丁度いいのよ」 「まあ確かに。しかしルイズは年齢より幼く見えるからなぁ」 「ジョータローとルイズを『親子』って言ったら何人信じるかしら?」 「さすがそれは無理だろ。でもタバサなら『親子』で通用するかも」 「寡黙なところとか似てるしね。クスクスクス」 二人が調子に乗って笑い出すと、承太郎のフォークが止まった。 「おいッ! 俺はまだ十七だぞ」 二人の調子に乗った笑顔が凍りついた、タバサのフォークも止まった。 沈黙が流れる。 静かに流れる。 時間が停止したように。 「ん、んぐッ。コホ、コホッ」 タバサがむせ、慌てて水を飲む。 そしてグラスをトンとテーブルに置いた音を合図に、時は動き出した。 「僕と同い年だって!? ジョータロー!」 「私より年下ですって!? ダーリン!」 「老け顔」 タバサにまで言われてしまう。言われてしまった。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎の周囲の空気が質量を持ったようにズンと重くなる。 さらに気温がなぜか急に下がってきたような気がする。 エコーズACT3とホワイト・アルバムのDISCがINされたようだ。 「あ、あはは、ジョータロー? 怒っているのかい?」 「ダーリン! 落ち着いてダーリン! 普段のクールなあなたが好きよ!」 「…………」 タバサはスッとサラダを承太郎に差し出した。 お詫びのつもりらしい。 承太郎は無言でそのサラダを食べた。初めて食べるサラダだ。 苦い。テラ苦い。ゴッツ苦い。めがっさ苦い。ザ・ワールド級に苦い。 承太郎は盛大にサラダを吹き出した。タバサの顔にサラダがかかる。 「ゴホッ、ゴホ! ……何だこれはッ!?」 「はしばみ草のサラダ」 はしばみ草。苦くてマズイ食卓の嫌われ物。タバサの好物である。 それを大口でパクリと口に含んでしまった承太郎は、あまりの不味さに気分を悪くし早々に部屋で休む事になる。 空条承太郎にこの世界で初めて敗北を味あわせたのは、はしばみ草のサラダだった。
https://w.atwiki.jp/naruhara/pages/628.html
アルビオン 消費メモリ 268 耐久値 3,800 防御力 242 バレット防御 77 レーザー防御 215 サイトサイズ S318 420 ロックオン時間 0.60 ロックオン距離 381 レーダー索敵範囲 372 射撃補助性能 32 炎上耐性 80 帯電耐性 60 アシッド耐性 49 重量 169
https://w.atwiki.jp/robotama/pages/102.html
R-NumberSP ランスロット・アルビオン・エナジークリアVer.(Lancelot Albion Energy Clear Ver.) 【らんすろっと・あるびおん・えなじーくりあばーじょん】 「その考えは傲慢だとなぜ気づかない!」(第2次スーパーロボット大戦Z 再世篇より) 情報 作品名 コードギアス 反逆のルルーシュR2 カテゴリ SIDE KMF 定価 3,990円 発売日 2010年02月06日(土) 受注開始 2010年07月30日(金)16:00 受注締切 2010年09月13日(月)16 00 発送開始 2010年11月29日(月) 商品全高 約○○mm 付属品 手首:×8(握り手×2、開き手×2、持ち手×2、銃持ち手×2) 武器:スーパーヴァリス(ノーマル)、スーパーヴァリス(フルバースト)、メーザーバイブレーションソード×2、メーザーバイブレーションソード(鞘収納時)×2、スラッシュハーケン×4 その他:エナジーウィング 商品画像 機体データ 所属:神聖ブリタニア帝国 分類:第九世代ナイトメアフレーム 開発:キャメロット 形式番号:Z-01Z 全高:5.15m 重量:9.12t パイロット:枢木スザク 商品解説 2010年2月、東京と大阪で行われたTAMASHII Feature s - 魂フィーチャーズ VOL.1の限定商品。 7月30日からネットで受注販売することも決定した。 商品自体はアルビオンの成形色変更版で、クリア成形であることから「クリビオン」と呼ばれる。 通常版と違いエナジーウィングがちゃんと緑色なのはうれしいポイントだ。 評価点 問題点 不具合情報 関連商品 ランスロット・アルビオン figma 枢木スザク(外部リンク) コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1638.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ ワルドの手が、先ほどから震えている。いや、思い起こせば昨日再会した時から変だ。 顔には脂汗がにじみ、以前より顔色も良くない。食も細く、体温も低い…。 「ワルド様、どこか、お加減でも…」 「いや、どうということはない。ちょっと頭痛が…ね」 そう言うと、ワルドは取り出した薬をあおる。何年か会わないうちに、どこか悪くしたのかもしれない。 (ご両親を早くに亡くされ、血のにじむような努力でグリフォン隊の隊長にまでなった方。 きっと、お体を労わられることも少なかったのね…) ルイズが悲しげな表情をする。しかしワルドは気丈に振舞う。 「しかしきみ、そのホウキは何だね? 『東方』の魔法かい?」 「ええ、そうです。ぼくはまだ『飛翔』では上手く飛べないので。小回りもききます」 松下は飄々と答えるが、どこかワルドに胡散臭さを嗅ぎ取っていた。 ともあれ、フネ(飛行船)にはたどり着いた。キュルケたちはシルフィードで追いついてくるだろうし、 もし合流できなくても彼らなら問題はない。ワルドは急ぎ出港の手続きをする。 積荷や予約席が多く、船長は乗船を渋ったが、ワルドが交渉した結果、 積荷の『硫黄』の運賃と同じだけの代価を払うこと、 および『風』のメイジであるワルドが、フネを動かす『風石』の補助をすることを条件に乗船できた。 風の魔力が詰まった『風石』を消費することで、フネは空を飛ぶのだ。 「硫黄はきっと、『王党派』の根城を砲撃するための『貴族派』の弾薬だろうがね…」 そう言うとワルドは操船の指揮を取りに行き、ルイズと松下は船室に残された。 明朝にはアルビオンに到着である。 乗員乗客の間では、行き先・アルビオンの噂で持ちきりだ。 「明後日にも王党派への総攻撃が開始されるとか」 「貴族派の軍勢は数万人、王党派はたったの数百。最初から勝ち目はない」 「今後もアルビオン貴族派とコネを作っておけば、商売繁盛…」 「戦争も、巻き込まれなければカネにはなるさ…」 翌朝。船室の窓から陽光が差し、ルイズは目を覚ました。 朝の青空の中、雲の上をフネは飛んでいく。地上から3000メイルもの高さだ。 「アルビオンが見えたぞーーっ!」 船員の声が響いた。ルイズと松下は窓の外を見る。 『浮遊大陸』アルビオン。大きさはトリステイン王国と同じぐらいだが、空中を浮遊して洋上を彷徨い、 月に何度かハルケギニアの上にやってくる。二つの月が重なる夜、最もトリステインに近づく。 大陸からあふれ出た水が白い霧になり、大陸の下半分を覆っているところから『白の国』の名がある。 と、突然見張りの船員が大声をあげた。 「右舷上方の雲中より、不審船接近!」 近づいてくる船は、舷側からいくつも大砲を突き出していた。アルビオンの反乱貴族たちの軍艦か? 「俺たちはアルビオンの『空賊』だ! 抵抗するな! 積荷をよこせ!!」 黒い船の甲板で、荒くれ男が停船を呼びかける。続いて鉤爪のついたロープが放たれ、舷縁に引っかかる。 たちまち武装した男たちがロープを伝ってフネに乗り移ってきた…。 「山には山賊、海には海賊、そして空には『空賊』か」 松下は暢気に呟いた。まだまだ前途は多難のようだ。 「なんてこと、もうすぐなのに!」 ルイズは杖を握り締めた。しかし、現れたワルドに止められた。 「止めておくんだ! 敵は水兵だけじゃない。砲門もこちらを狙っている。メイジだっているかも知れない」 空賊たちは次々と乗り込んできた。乗員乗客は後ろ手に縛り上げられ、甲板に纏められる。 誰も抵抗する者はない。悪名高いアルビオンの『空賊』である…。 全員が集められると、空賊の頭領らしき髭面の男が大声を上げた。 「おおい、船長はどこだ!? 積荷は硫黄だろう!? 全部寄こしやがれ!!」 震えながら船長が「私だ」と名乗る。頭領はにいっと笑う。 「船ごと全部買うぜ。料金はてめえらの命だ。別嬪さんは残しておいて、売り払ってやる」 下品な表情でにたつく頭領は、ワルドとルイズに気がついた。 「おや、珍しく貴族の客まで乗せてんのか。こりゃあ別嬪だなあ」 「下がりなさい、下郎! 触るな!」 「ルイズ、落ち着いてくれ。刺激するな」 気が強く誇り高いルイズは、隠忍自重することができない。平民の空賊風情に侮辱されて、黙ってはいられない。 「私は、アルビオンの…」 そこまで言ったところで、頭領がルイズに当て身を食らわせ気絶させる。 「おい、この嬢ちゃんと連れの貴族、ついでにこの餓鬼を、船室に連れて来い」 ルイズたちは甲板から船室に移されると、頭領の前で縄を解かれた。ルイズもすぐ目を覚ます。 「おい、あんた方はひょっとして、『王党派』か?」 「…そうよ。貴族派でなくて、残念だったわね」 (馬鹿正直に言う密使がどこにいる。ワルドも『静音』ぐらいかけろ…ああ、杖が没収されていたのか) 松下は心中頭を抱えるが、頭領はにいいっと笑うと顔の皮…否、変装の覆面を剥いだ。 「ははははは、ならば歓迎しよう。我らが頼もしき味方よ」 髭面の覆面の下は、似ても似つかぬ金髪の凛々しい青年。空賊の頭領の正体は…。 「あ…あなたは、まさか『ウェールズ殿下』!!?」 「そう。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 「手荒な真似をして済まなかった。『空賊』でもしないと軍需物資が足りなくてね。 積荷を貰ったら、彼らはどこかで解放するよ。それで、きみたちは…?」 ルイズたちは佇まいをただす。ようやく目的である皇太子に謁見できた。 「お初にお目見えします。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。 トリステイン王国のアンリエッタ姫殿下より、この密書を言付かって参りました」 恭しく一礼すると、ルイズは懐から手紙を取り出す。 「少し待ちたまえ。その指輪は『水のルビー』かな? 確かめたい」 ウェールズは自らの指に光る『透明な宝石』の指輪を外すと、ルイズの指に嵌っている『水のルビー』へ近づけた。 すると二つの宝石が互いに反応し、美しい虹色の光を振りまいた…。 「殿下、これは……?」 「この指輪は、我がアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。君のは、トリステイン王家に伝わる『水のルビー』。 水と風は『虹』を作る。王家の間に架かる虹さ。なるほど、確かにアンリエッタが送ってきた本物の大使のようだ」 ウェールズはルイズから手紙を受け取ると、花押に接吻し、封を解いて便箋を取り出す。 そして真剣な顔付きで手紙を読み始め、読み終わると顔を上げた。 「そうか、姫は結婚するのか……あの愛らしいアンリエッタ、私の可愛い従妹は」 「はい。あの成り上がりの、野蛮なゲルマニアと…」 ウェールズもルイズも、苦々しい顔をする。キュルケの件といい、ゲルマニアはそんなに嫌か。 「姫は、私の手紙を返して欲しいと告げている。姫の望みは私の望みだ。 …だが、あいにく今手元には件の手紙はない。我が『ニューカッスル城』にあるのでね。 多少面倒だが、このままニューカッスルまで足労願いたい。歓迎しよう」 こうして、フネは進路を変え、直接ニューカッスルに向かうことになった…。 『貴族派』の包囲網を潜り抜け、ニューカッスルに到着。総攻撃に向け、双方緊張している。 さっそく出迎えを受けるが、念のためとして杖や武器、グリフォンは向こうに預けられる。 曳航してきたフネと積荷は戦利品だ。 ウェールズは自室に入ると、小箱から一通の手紙を取り出した。アンリエッタからの恋文だ。 もうボロボロになったその手紙に口づけ、丁寧に開くとゆっくりと読み直し始める。 やがて読み終えたウェールズは、手紙を丁寧に畳み、封筒に入れるとルイズに手渡す。 「姫から頂いた手紙、このとおり、確かに返却した…」 「殿下、有難うございます。お役目は果たせました」 ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。しばし躊躇い、ルイズは決心したように言った。 「殿下……もはやアルビオン王軍に、勝ち目はないのですか?」 「ないよ。我が軍は三百、敵は五万以上。万に一つの可能性もない。物資も圧倒的にあちらが多い。 我々にできることは、せいぜい勇敢な死に様を連中に見せ付けることだけだ」 「な、ならば、せめてお逃げください。我がトリステインに亡命なさってください!」 ルイズは思わず叫んだ。衷心からの言葉に、ウェールズは苦笑する。 「駄目だな。私がトリステインに亡命しても、貴族たちにトリステイン侵攻のいい口実を与えるだけだ。 それに、ゲルマニアとの同盟も水泡に帰する。だから、降伏も亡命も出来ない相談だ。 アンリエッタに、トリステイン王国に迷惑がかかる。この機密文書は焼き捨てるよ」 「でも……姫様は……」 ウェールズはにっこりとルイズに笑いかけ、そっと『風のルビー』を指から抜くと、手渡した。 「私の形見に。アンリエッタに渡してくれ……勇敢なる大使殿。 そして、王子は勇敢に戦って死にましたと、彼女に伝えてくれればいい」 ルイズはとうとう耐え切れず、泣き出してしまった…。 王党派の貴族たちはここぞとばかりに着飾り、テーブルには豪華な料理が並ぶ。 決戦の前夜、城のホールで行われたパーティ。ルイズたちも参加させられる。 「明日で終わりなのに、なぜ、この人たちはこんなに明るいの……?」 「終わりだからこそ、ああも明るく振舞うのだよ。僕のルイズ」 ワルドが答えた。着飾りながらも泣き腫らした目のルイズは、目を伏せる。 「明日死ぬのに、勝ち目が無いのにあんなに朗らかだなんて……私には理解できないわ。 あの人たちは、どうしてわざわざ死を選ぶの? 姫様が逃げてって、亡命してって言っているのに」 「ルイズ。戦場で散る事は、王侯貴族の男児としての、名誉であり誇りであり、また義務なのさ」 「わからない。わからないわ…」 「皇太子もアンリエッタ殿下に迷惑が掛からないよう、ここで死のうとしている。 …愛しているからこそ、さ」 「王侯貴族は面倒なものですね。森の中でゲリラ戦を仕掛けるなり、ゲルマニアとやらへ亡命すればよかろうに」 三文オペラに退屈しきった表情で、グラスを傾けながら松下が呟く。悲劇に酔う趣味はない。 (悪政を布いているのでなければ、平民には誰が首長になろうと変わりない。 王制でも寡頭制でも共和制でも民主制でも、結局は独裁政治に流れるだけではないかな…) 轟音が鳴り響き、ニューカッスル城が揺れる。敵艦『レキシントン号』の威嚇砲撃である。 ルイズはその夜、眠れなかった。キュルケやタバサからも、連絡はない。 翌朝、貴族派の総攻撃から逃れるため、非戦闘員が続々と『イーグル号』に乗り込む。 ルイズたちも脱出するために中庭に集まっていた。杖は返され、グリフォンもいる。 見送りにはウェールズが立ち会う。今生の別れである。 「お忙しい中の見送り、ありがとうございます。殿下」 「いや、構わないよ。最後の『客人』だ、丁重にお送りしなければね」 ウェールズが微笑む。その微笑を見て、ルイズの顔が曇る。彼はもうすぐ死ぬのだ。 「そんな顔をしないでくれたまえ。我らはここで犬死にするのではない。 あの愚かな野望を抱く叛徒どもに、『ハルケギニアの王家は弱敵ではない』と示すのだから。 無論、それであの者たちがつまらぬ野望を捨てるとは思えぬが…それでも、『無駄』ではない」 「いいや、『無駄』だね殿下。あなたはここで、無様な死に様を晒すのだ」 突如、ウェールズの胸板を背後から鋭い剣…いや『杖』が貫く。 「それが我が『レコン・キスタ』の望み」 下手人は……ワルド子爵であった。杖が引き抜かれ、皇太子は断末魔も上げず、血を噴いて絶命する。 「ワルド様!? な…なぜ…あなたが『レコン・キスタ』などに」 突然の舞台暗転。ルイズは力が抜け、へたり込む。松下は『占い杖』を抜く。 「さあルイズ、きみも僕と一緒に来るんだ。共に『永遠』を生きよう!」 振り向きざまに見開かれたワルドの瞳は狂気に、いや、絶望に赤く輝いていた……!! その背後に、巨大な『眼』がいるように、二人には感じられた。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/rai6puk/pages/73.html
邪推SS/アルビオン(SC72~SC89) SC72年、イーズ恒星系惑星ナレッソの覇王アブダーと王妃アムの王子として生を受ける。 父アブダーはア族東洋分家の末裔であり、名門の御曹司らしい明るく優しい若者であったと伝えられる。ことに母アムからはその愛情を一身に受けて育った。 物心ともに何不自由なく育ったその環境が、温厚で快活な人柄を形成した事は想像に難くない。 しかし彼が7歳になったSC80年。 ア族テラ宗家の当主にして地球帝国第二代皇帝アグリッパが“地球による宇宙の再統一”を掲げ、その手始めとして隣接するイーズ恒星系に侵攻を開始。 イーズの玄関口とも言うべきナレッソは、真っ先にその侵攻を受ける事となる。 SC83年。宇宙を埋め尽くさんばかりの圧倒的兵力でナレッソを包囲した地球艦隊に対し、敗北を悟った父アブダーは家族と民衆を戦禍から守る為に降伏を選ぶ。 父は地球に連行されて自害に追い込まれ、残された彼は母アムとともに、皇弟ブラウンにその身を預けられる事となった。 ことアルビオンに関して、人柄はともかく才能には恵まれなかったという説がある。 が、ここで読者諸賢には一考を願いたい。彼はあの大帝王アグデッパや、傲岸不遜で知られたブラウンをしてその将来を恐れさせた若者である。 一武将としての実務能力はさておき、“将の将”たる君主の器としてはまさに天賦の才を感じさせるものがあったのであろう。 地球の公文書によればSC89年17月。惑星バース攻略戦において別働隊の指揮官として参加していたが、旗艦が流れ弾により大破、名誉の戦死を遂げる。 養父ブラウンによる謀殺であった。 しかし、ここに異説が存在する。 近年公開された『SC120年代記』によれば、密かに陰謀を察した彼は自らの死を偽装して逃れ、交戦中だった覇王アキの元に身を寄せたとされている。 いわゆる判官贔屓の類であると否定説も根強いが、あえてここでは生存説に準拠して筆を進めたい。 アキ陣営に亡命したアルビオンは、彼の客将としてザクソン遷都後のセントラル統一戦、 さらにイーズから侵攻してくる地球軍との8度に渡るザクソン攻防戦において大いに活躍する事となった。 名将バーセムや稀代の軍師ラーといった多くの優れた師に恵まれた事は、彼の埋もれていた才能を開花させた。 アグデッパやブラウンの懸念は見事に的中したと言えよう。 また鷹揚で闊達な性格で人望を集め、血統の良さもあって一時は王女ジェニファの婿候補にまでなった。 が、アキの意向により王婿の地位はラーに譲ることとなった。 反地球同盟成立後は、イーズに進攻する同盟軍全軍の先鋒を務める。怒涛の勢いでナレッソを攻略、およそ20年振りに故郷の土を踏んだ。 さらに余勢をかってバニモに進出し陥落寸前にまで追い込むが、覇王アキの病死により同盟は分解。 前線にいたアルビオンの元にアキの訃報とザクソンへの撤退命令が届いた時彼は天を仰いで嘆息し、セントラルへ撤退した。 その後は新進のグルダン、カンディらと共に将軍として覇王ラーを支えたが、SC126年。 病を得て53歳の若さでこの世を去り、その早過ぎる死を多くの人々に惜しまれた。 葬儀では覇王自ら喪主を務め、闘将位を追贈された。 後年、ラーの後継者となったショーンは知人に 「アルビオン将軍が存命ならば、私などが後継に選ばれる事はあり得なかっただろう」とよく零していたと伝えられている。 今でもザクソンにある彼の墓には、顕花に訪れる人の列が絶えない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1592.html
第二話(12) アルビオン、一歩手前! その① 「マリコルヌったらまだかしら?」 手紙奪還の命を受けたルイズとマリコルヌ。ルイズが行くのであるからFFとFF下っ端は勿論ついて行く。 だが約束の時間を過ぎてもマリコルヌが現れない。つまり遅刻だ。 嫌ならおいてってしまえばいいのであろうが、律儀にルイズはマリコルヌを待っている。 そこで漸くマリコルヌが現れた。 「ルイズ、僕のルイズ、お待たせ。」 息を切らしながら、マリコルヌが走ってやってきた。 「何やってんのよ、遅いじゃない!」 ルイズはご立腹である。でもマリコルヌは気にしない。 「今日のお昼のお弁当を作ってきたよ。クックベリーパイもあるんだ、あとで一緒に食べよう。」 「そそそ、そんなのを、ももも、持ってきたって、遅刻は遅刻よ!ゆゆゆ、許してなんかあげないんだからぁっ!」 そんなことを言いつつも、内心はヨダレズビッ!である。 しかもマリコルヌはご丁寧にFFの分まで用意してきていたのだ。 じゃあ出発視よう!というとき、後ろから吐き気を催すような嫌悪感を与えてくる声が聞こえてきた。 「僕は君のことなら(ヴェルダンデに覗かせているから)何でもわかるよ、モンモランシー。」 「やっぱり私達は運命の糸で結ばれているのね、ギーシュ。」 ルイズはなんか鬱陶しいヤツが来たと思っている。マリコルヌは、ルイズと同じ様なことをやってみたいなぁなんてことを考えている。 「あんたたちこんなところで何やってんのよ!」 ルイズが問答無用でけしかける。しかしバカップルには通じない。 「おや、君たちも旅行かい?学院をこっそり抜け出してまでする、二人の愛の旅行を邪魔しないでくれたまえ。」 「はぁ?何言ってんのよ!あんたたちなんかと一緒にしないでちょうだい!」 「もうすぐ滅びるアルビオンの諸行無常さを見に行くんだよね~、愛しのモンモランシー。」 「こんなことなかなか見れないもの。それに諸行無常さなんてない、私たちの永遠の愛を確認できるしねぇ、私のギーシュ。」 ルイズは思い出した。こいつらはアホになったんだと言うことを。こいつらには一般人の常識が通じないということを。 ルイズは空気扱いをすることに決定した。だから彼らの会話は文章にならないだろう(高確率で)。そう、永遠に、永遠に…。 第二話(12) アルビオン、一歩手前! その② 再び出発しようとしたとき、今度は空からグリフォンに乗った男が降りてきた。 我々はこの男を知っている。この髭と、様々なSSで酷い目にあってきたことを覚えている。 「やあ、僕はワルド。グリフォン隊の隊長さ。悲惨な事件だったね。まだ、見つかってないんだろう、遺体が。」 「ワ、ワルド様…。」 ルイズは顔を紅潮させ、ぽけーっとしている。 「そんなに強張らないで。もっと気楽に、昔みたいに呼んでくれよ。」 「ワ、ワルド…?」 「そうだよそれでいいんだよ、僕のルイズ。」 このやり取りが行われている中、マリコルヌは絶望していた。 (い、一体なんなんだぁぁ!ルイズには、すでに、彼氏がいた!?なんだか死にたくなってきた…。) 終わった!マリコルヌ完! 「…そ、そういえば、ワルドはどうしてここにいるの?」 「僕はね、姫殿下に頼まれたんだよ。君たちの力になってくれってね。」 「そ、そうなの…。それはとても心強いわ。」 ルイズは真っ赤になった顔を鎮めることができない。 「ところでメンバーを紹介してもらいたいんだが。」 「そこで体育座りをしているのがマリコルヌ。あそこにいる女の人がミス・ロングビル。あの黒いのが私の使い魔のフー・ファイターズよ。」 その説明を聞いてFFは思った。 (そことかあそことか代名詞使いすぎだ、ルイズ。せめて特徴をいれようぜ特徴を。) しかしワルドは気にしない。 「…で、あそこの二人は?」 「あそこには誰もいないし何もありません。」 「いや、でも…」 「私には見えないし関係ありません。きっとワルドは何とか症候群が発症して見えないものが見えているのよ。」 ワルドは漸くルイズの伝えたいことが伝わったようで、遂に黙った。 第二話(12) アルビオン、一歩手前! その③ 「それじゃあ、出発しよう。僕とルイズが(グリフォンの)上、君たちが下だ。」 FFとマリコルヌは馬で、ワルドとルイズ、FF下っ端はグリフォンでの移動だ。 はっきし言ってワルドはおいて行く気満々だ。 というかおいて行かれた。 ワルドはルイズが心配しだす度に、ルイズをギュッと抱きしめ耳元で囁く。 そうするとルイズは沸騰ののちに爆発し、おいてかれている二人どころではなくなってしまうのだ。 ワルド、ルイズ、FF下っ端は無事にラ・ロシェールに到着。部屋を用意していた。 一方、マリコルヌとFFは崖付近で敵の襲撃を受けていた。 「いいよなぁ、どうせ僕なんて…」 出発の時の出来事を未だに引きずっているマリコルヌ。はっきり言って戦力外だ。 FFも流石にこんな大人数相手では分が悪い。 だが、気が付いたらいつの間にか戦闘は終わっていた。 何故か。それは突然現れたタバサによる不意打ちの賜物であった。 空から降り注ぐウィンディ・アイシクル。しかも降り注いでくるまで気が付かなかった賊たち。 タバサは完全に相手から気がつかれない様に周到に準備し、実行したのだ。 「…大丈夫?」 「ああ、助かった。ありがとう。」 結局二人はシルフィードに乗せてもらい移動することになった。 さっきの戦闘で馬が逃げてしまったからだ。 「もう、パーフェクトもハーモニーも存在しないんだ。」 マリコルヌは当分立ち直れそうにない。 こうして三人と一匹はラ・ロシェールに向かった。 第二話(12) アルビオン、一歩手前! その④ 早朝、タバサは出かける準備をしているルイズ達を見つけた。 タバサは思いつめていた、親友のキュルケが亡くなったことに。そして塞ぎ込んでいた。 そこで先程のこと見て、タバサは考えた。 きっとキュルケだったら、なにかあるだろうとふんで、ルイズを心配して、追いかけていくだろう。 もちろん私もみちづれだ。きっと彼女は今も心配しているであろう。 もし、遺言が聞ける状態であったのであれば、彼女は私にルイズを任せるだろう。 だから、せめて彼女の変わりに私がルイズを守ってあげよう。 ルイズのことはよくわからないが、キュルケと仲が良かったのだから悪い人物ではないだろう。 キュルケを捜すと言った時だって、なんだかんだ言って手伝ってくれたのだから。 そうしてタバサは一行のあとをつけたのだ。 タバサはラ・ロシェールに向かいながら、思っていた。 今助けたのは、ルイズの使い魔のFFだが、その肉体はキュルケを殺した憎きフーケのものなのだと。 FFに恨みはないし、フーケももう死んでいる。 しかしFFにあたるのはお門違いだが、見ていてイライラしてしまう。 このまま見続けていれば、殺してしまうかもしれないと思い、タバサは目をいつものように本に移した。 但し、いつものように本の内容が頭に入ってくることはないのであるが…。 結局、タバサは本を一ページもめくらないまま、ラ・ロシェールに着いた。 宿はマリコルヌの使い魔、クヴァーシルがルイズ達と行動を供にしていたのでわかったのだ。 因みに予定外のタバサの分は部屋が取れておらず、同じ女性と言う理由でFFと同室にされた。 他の部屋割りはワルド・ルイズ、マリコルヌ・FF下っ端である。 タバサは食事もろくにとらずにベッドに直行して睡眠に走った。 翌朝目が覚めたらキュルケが生きていて、おはようと声をかけてくれたらいいな、と夢想しながら、タバサは次第に眠りへと堕ちていくのであった。 第二話(12) アルビオン、一歩手前! その⑤ 同じ頃、食堂ではマリコルヌがやさぐれていた。 「太陽なんて、穢してやる。」 一方のルイズはというと…。 「ほら、ルイズあーんして。」 「そ、そんな…はずかしいわ、ワルド…あーん。」 この場の雰囲気にいたたまれなくなったFFは、何とかしようと考え、その実行のために、腹は立つがギーシュ・モンモランシーのバカップルのところに行った。 何故か二人も同じ宿に泊まっていたのだ。お約束だ。 数時間後、ワルドは部屋でルイズにプロポーズをしていた。 しかしルイズは一瞬マリコルヌが脳裏に浮かび、戸惑ってしまう。 しかしそこにワルドが間髪いれずに言う。 「そんな一瞬浮かんでくる程度の者なんて、一時の過ちさ、僕のルイズ。僕に総てを委ねてくれ。」 急に抱きつかれてマリコルヌのことが頭の片隅に追いやられてしまった。 するとワルドの体重がルイズにかかり、ベッドに押し倒されてしまう。 (あぁ、私、これから…) ルイズは上記のように考えていた。 (なんだか…頭が…ぼぉっと…) ここでルイズの記憶は途切れる。 そのころFFは、腹は立ったが苦労の甲斐があったと、ため息をついていた。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/murasakisikibu/pages/39.html
新しい活動目的 **アルビオンスカーム 8月7日更新分 火 木 金にてアルビオンスカームの攻略を行います。 目的は追加装備と金策です アルビオンスカームの活動終了目標ですが、装備がある程度まで回る 金策として成り立たなくなる この両方が該当するまで活動を行います。 アルビオンスカーム活動終了後の予定 マリアミメナスで金策、または他コンテンツの攻略を予定してます トリガーについてですが、旧メナスでトリガーが出るらしいです。(胴足は従来のパーツ) なので旧メナス→アルビオンスカーム攻略という流れで行う予定です。 トリガー代金ですが割り勘でいきます。 遅刻しアルビオンスカームのトリガー取りに間に合わなかった場合ですが割り勘のときに競売価格が上乗せされます 現在メンバーは12名 2名が行方不明 参加率の高いメンバーは7~8名です。 これらの対策として2名ほど追加メンバーを募集しようと思います。 不明メンバー2名の対応ですが、盆明けまでにログインを行わなかった場合引退と判断します。 盆中にログインを行った場合は補充無しの方向で動きます。 盆明け引退と判断した後ログインを行い、今後定期的にログインした場合の対応ですが休みメンバーの補充という形での参加となります、ご了承ください。 当活動は6名2チームを作成し活動を行います メンバー表は下記参照でお願いします どのレベルのスカームに行くかは、各チームごと相談お願いします 武器またはトリガーのドロップが劣悪だった場合ですが、メンバー全員の希望を満たすことが出来ないかもしれないのでご理解ください 8月10日更新分 アルビオントリガーを購入できる品だった場合ですが、VW→アルビオンスカームのような感じで金策を行いつつ活動をするような感じになるかもしれません とりあえず希望品は3種にしておきます、ドロップ確立などに応じて増減があると思われます 2チームの編成などはシキブが行いますが、活動中の細かい編成や作戦などは各チームでお願いします。 可能ジョブについて メナス 上位BFなど119以上のコンテンツにおいて、野良でも活動可能なジョブを基準にしております。(これできるよ!というのあればテルでおしえてねー!) 8月17日更新 長期になる恐れがあるのでVW12戦の後スカームを攻略する形にしました。 編成はララ シルダス共にモモ白黒吟学で行きます。 トリガー代は割り勘で行きます。 チーム1 編成中 メンバー名 Murasakisikibu Billyneco Mileina Coacoa Zyaiko Recee チーム2 編成中 メンバー名 Ironbull Sizuko Metalneco Hanipo Mishtal Tryton